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まえに書いたもの その6 『最後のロング』

以前、三か月に一度のペースで連載していた読売新聞大阪版コラム
『女のミカタ』 2015.6.29  掲載のものをば。

ゲラで直した部分など、実際の紙面とは少し異なる場合もあります。 

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20代から30代にかけて、のべつ髪型を変えていた。
パーマをあてたり短くしたり、うんと長く伸ばしたり。


背中までの長さをバッサリ切るときには、美容師さんに
「本ッ当にいいんですね?」
と100回ぐらい念押しされた。

髪が伸びるのが割に早いほうなので、失敗してもまぁいいや、ぐらいのつもりだったけれど
「…気持ちの区切りですね…」
と意味深に言われ
「いや、失恋とかそんなんとちがいますから!」
言えば言うほどヘンな空気になったのだった。


40代になり、そろそろロングにも飽きてきたな、切ろうかなと思ったとき。初めて「ちょっと待てよ」と考えた。

もしかして今切ったらこれ、生涯最後のロングヘアになるんじゃなかろうか。


年齢を重ねるごとに長い髪を維持するのが難しくなる、とは年上の方から
よく聞く話。
だんだん髪にハリ・ツヤ・コシがなくなってくるわ、白髪染めは必要だわ、萬田久子さんならともかく、一般人がツヤツヤロングをキープするのは至難の業なのだ。


 ましてや面倒くさがりな自分のこと。50代・60代になって
「また伸ばそう」とツヤツヤロングの道へ進むとは思えない。
ならばこれが人生最後のロングヘアなんじゃなかろうか、と。


それまで、好きなように切ったり伸ばしたりを繰り返してきたのに、
ある日突然
「人生最後の」
「死ぬまでにあと何度」
と、自分の死を起点として考え方の矢印がぐるんと逆向きになる。
たかが髪型なのに、切るのをためらってしまう。
ひょっとして、これって老いのはじまりなんだろうか。


結局は短くしたものの、今だお気に入りの髪留めやヘアクリップを捨てられずにいるのは、未練なんだろうか。



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