おすそわけ日記 193「へそのゴマ慕情」

中学生だった或る日、目が覚めたら、へそのゴマがなくなっていた。

昨夜までは、確かに二粒あったのに。

私のへそが綺麗に清々としている。


この時、私は生まれて初めての喪失感を覚えた。

自分の身体の一部がない。

このスースーとした頼りなさ。

そして、衝撃。


暫しの放心の後、母に打ち明けた。

「お母さん、おへそのゴマがなくなってるの…」

しょんぼり顔の私に、母はさらっと言い放った。

「私が取りました」


更なる衝撃に言葉を失う私。

「だって、起きてると嫌がるから、寝てる間に取らないと」

「病気になったら、大変じゃない?」

母が言葉を重ねて来るが、もう、母への不信感しか感じられない。


よろよろと祖母の部屋に行き、事の顛末を話した私に、祖母が一言。

「足押さえたりして、大変だったんだよ」

二人ががりか!?


こうやって、家族への信頼は損なわれ、

その分、笑い話が増えていく、我が家の歴史。


後日談。

昨夜、母と二人でこの話を思い出し、

四十年を経て、しみじみと話してしまった。

まぁ、しみじみと言っても、しみじみする要素は微塵もなく。


「お母さんの隠れてやるところが、信用できないんだよー」であるとか。

「あの二人がかりは、どっちが計画したんだろう」であるとか。

「カフカの『変身』で主人公が虫になっちゃう気持ちがわかる位の衝撃だった」であるとかとか。

最終的には「色々あったね」の一言で大団円。


そして、今日。

「こんな話、誰も読みたくないよー!」と言う母の言葉と羞恥心を振り切って、書き綴る私。

私の人生の中では、トリプルで衝撃的だった出来事なので、後世に残しておかないと。

その横で、母が突如として

「気づかないうちにゴマ取るなんて、ベテランだよね。へそのゴマ名人!」

と、わけのわからない自画自賛を始めたことも書き留めておこう。


【#つづく日々に】のタグをつけて、日常で心ときめいたことを投稿中。(あ、今日の話はときめきではないですが!)日常のよろこびをみんなでシェアしあって、笑顔が増えたら嬉しいです。

今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。