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地名巡りその2:地名考察のあれこれ編。
地名を考察するための前提知識について、お話しします。
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地名について分析するシリーズ、第2回。
そもそも地名を考察する手順でありますが、第一に、前回確認しました一覧に当て嵌めていくのがよい。
すなわち、自然条件や歴史的経緯からその地名由来を推し量っていこう、というのが地名の基本原則でございます。
しかし、それには例外が多い。というか、その例外を考慮せずに地名の由来を断言することは不可能であるというレベル。
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民話のまち・遠野に相応しい駅名がステキ(岩手県遠野市)
ということで今回は、地名と出会った際にどのような姿勢で臨むべきかについてのイロハを語っていきたいと思います。
第1回のときもそうでしたが、地名は前提となる知識が多い。
今回も頑張って詰めっ、込めるだけ詰め込みましょう。
和銅の好字令・瑞祥地名
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ひとつめ、和銅七年(713年)のいわゆる「和銅の好字令」により定められた、日本語地名の基本的なルールについて。
大化の改新による全国的な中央集権化を目指す中、万葉仮名でグチャグチャな命名規則による地名が溢れていると、戸籍管理の都合上不便だということで、諸国の地名は「二文字」「良い字」で統一しよう、というお触れがでたわけです。
無理やり二文字地名にした代表的な例としては、現在の大阪府に位置した旧国名の「和泉」がありますね。
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「好字」に関連して、全国各地に存在する「瑞祥地名」についても考慮が必要な案件です。
歴史的にはそのまま「好字」とも、あるいは「佳字」「嘉字」などともいいます。
「良い字」を使うだけでなく、自然地名よりもさらに優先して、おめでたい印象を惹起させる地名を積極的に名付けてしまおうという案です。
そもそも地名について考察する際、重要なのはあくまでも「音」であって、付けられる表意文字・漢字に意味はありません。
さて瑞祥文字、具体的には「栄」「豊」「美」「福」「梅」「月」「鶴」「春日」「千歳」など。
たとえば大阪の中心地である「梅田」は、埋立地の「ウメ」を良い字に変えたもの。
同じく「月島」も、土地を「築」いたことで造られた埋立地である「築島」を良い字に変えたもの。
日本全国どこでもありふれていますね!
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しかし、前回紹介したように「ツル」は微高地をさす自然地名由来の可能性もあるため、恣意的な変更があったかどうかは個別具体の検討が必要。
あるいは「チトセ」、とりわけ北海道の千歳市や千歳川の名である「千歳」に関して言えば、アイヌ語という特殊な事情があるなど… 他にも考慮すべき事情がたくさんだ!
というわけで、その「千歳」の詳細は次回をお楽しみに!
郡名・ひらがな地名・平成の大合併
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ふたつめ、行政地名のうちの郡名と平仮名地名、さらには平成の大合併について。
郡名というのは、町村名の前についているヤツ。
たとえば「和歌山県西牟婁郡白浜町」「愛媛県喜多郡内子町」といった具合ですね。
現在の行政上はほぼほぼ死文化した概念ではありますが、律令期以来の歴史ある地名をいまに伝える重要な名であります。
それでは、その歴史ある郡名にどのような場面で遭遇するのか。
ズバリ、平成の大合併で誕生した自治体名、特に片仮名の市名に要注目だ!
旧郡名を平仮名市名として採用した、というわけですね。
平仮名地名最古参は昭和35年(1960年)誕生のむつ市ですが、大半の平仮名市名は平成以降に生まれた行政地名だと判断しても問題ないです。
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それじゃあ、どうして平仮名にする必要があるんですの??
「つくば」ではなく、ふつうに漢字で「筑波」と書けばよいのでは???
と、そう思いますよね。
件のつくば市はやや古めの平仮名地名であり、昭和62年(1987年)に筑波郡矢田部町、大穂町、豊里町、新治郡桜村が合併して誕生。
「全域が筑波郡ってわけでもないし、そもそも桜村の人口が一番多いから筑波という地名は妥当ではないよね?」
「でも仮に〈桜市〉として合併すると、それってつまりは、人口の多いそっちにウチの町が編入合併、吸収されたってことになるよね?」
「〈桜〉って普通名詞というか、広域を指す地名としては地域の独自性と結びつかないのでは?」
「平仮名地名の方が、キャチーでポッピーで親しみやすいよね?」
やや妄想を込めた表現ですが、このような住民感情もあるために、新たに自治体名を付けるというのは大変な作業。
そこで、無難な選択肢として広域な地名である旧郡名を引っ張り出し、さらに平仮名地名として新市名とする。
そんなことがしばしあったのでしょう…。
合成地名
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みっつめ、行政地名のうち、合成地名について。
「これは自然地名だな!?」と思い調べ始めてみると、実際には、かつて同地に跨ったふたつの地名を組み合わせたパズルの結果であるということもあり、唖然とします。
上に挙げた「綾歌」を例に説明すると、郡名である阿野郡(あや)と鵜足郡(うた)を組み合わせ、漢字を変更したことで誕生した地名です。
…初見では分かるわけないですね!
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コチラのウェブサイトを眺めていると「あっ、これかぁ!」となる瞬間が山ほどあるので、意外に楽しいと思います。
これぞ例外の極致であり、幾ら自然地名を学んだところで妥当しない。
知恵を絞って推定したところで、実際は全くそうではなかったときの、生のこの空振り感覚が堪らなく、辛い。
狂いそう…!(静かなる怒り)
小字について
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よっつめ、石川県と佐賀県で発生した小字改変について。
今更ですが、地名には階層というものがありまして、行政上日常的に用いられる最下層の地名が大字・小字。
大字は近世以来の集落のまとまりを、小字は集落内のさらに特定の区画を指す地名です。
地名を表す際にはその範囲の大きい順番から、すなわち
都道府県>市区町村>旧町村>大字>小字
と述べるわけですね。
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さて石川県と佐賀県、これは非常にピンポイントな事例でありますが、お上の指導により字地名が機械的に割り振られました。
上の写真は石川県の例ですが、県内では「いろはにほへと」に「~部」と名付ける小字を見かけます。
しかしながら私、小字について深く理解が及んでいないので、詳しいことはあまり言えない。
小字こそを地名の極意だと考える先生方もいるわけですが…。
まァ、両県に遊びに行く際は… ぜひ探してみてくださいね!
*千葉県の一部の自治体(旭市で確認、ネット情報ではほかにも)でも同様の事例があるらしいですが、確信に至らないので今回は保留。
ニュータウン地名と地名殺し
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最後に、都市部で顕著なニュータウン地名と地名殺しについて。
戦後になってから建設された新興住宅街、特にいわゆるニュータウンでは、びっくりするような地名がたくさん登場します。
敢えて換言するならば、一見してふつうの日本語地名のように思えるけれども、新しく作り出された地名。
瑞祥地名のように非地名由来の行政地名でも、歴史的に根付いた地名を組み合わせた合成地名でもなく、耳障りの良い商品名として恣意的に地形条件を連想させるような地名の事例ですね。
「〇〇ヶ丘」「〇〇台」「桜○○」などが代表例でしょうか。
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不動産商品として売り込まなければならないわけですから、うんまァ、イメージの良い名前を付けたいのは当然ですよね。
しかし、郡名のように元からあった地名を掘り起こしたわけではなく、古い地名を追い出して、新たに「商品」としてぽっと出に創り出した地名であるということ。
過去の記事でもお話しした、東京の高級住宅街・自由が丘の元来の地名は「谷畑」や「衾」であり、九品仏川が削った水の溜まりりやすい谷地に由来する地名。
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「丘」と「谷」では、地名から連想する自然条件への印象はまさに真逆。
この地名解説も、「自由でのびのびとした街づくりをしたい!これが自由が丘だ!」という中身の無い内容を伝えるよりも、「ここは谷になっているから多摩川が氾濫したときは危ないよ!気を付けてね!」と標した方が良いと思うのですが…。
とりあえずは、自分だけでも、地名に対する敏感な推察力を鍛えていけるようにしたいですね。
ウーン、難しいなァ…。
おわりに
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書き上げた感想ですが、これほど体系化できるならば「例外」というのも違うのではないかとおもった(小並感)
余談。これは完全に私見なのですが、平仮名地名や片仮名地名は…あんまり好きではない。
日本語は、歴史的に漢字文化圏であるからこその意義が大いにあると思いますし、漢字であるからこそ妄想が広がって、楽しい。
そもそも「好字の二字」という大原則から外れますしね!
やはり、地名を分析するには、駅名から始めてみるのがオススメでしょう。比較的漢字地名が残っていますし、駅で降り立った後に周辺を散歩し、知名の由来について妄想を膨らませる…
そんな旅が、好きです。
さて、以上の地名考察についての反省点。
真の分析のためには上代日本語についての言及が必要不可欠なわけです。
あとは方言学も必須ですね… 学ぶことが多い!!
でもまだ勉強中なので… 頑張ります、ハイ。
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さて次回予告。
地名編第3回は、日本語の中にあるアイヌ語地名の謎について、調べていきたいと思います。
主にはアイヌ語地名の読み方と分布、それと似非アイヌ語地名についてを取り扱いたいなぁと考え中です。
いろいろと議論が多く大変な内容ではありますが…頑張ります!!
↓ぜひ解説動画の方もご覧ください↓
参考文献
今尾恵介『地名崩壊』角川新書、2019年.
鏡味明克『地名が語る日本語』南雲堂、1985年.
角川書店『角川日本地名大辞典』全51巻、1978-1990年.
金井弘夫 編『新日本地名索引』アボック社、全3巻、1994年.
谷川健一『わたしの民俗学』三一書房、1991年.
筒井功『アイヌ語地名と日本列島人が来た道』2017年.
日本地名研究所監修『古代-近世「地名」来歴集』アーツアンドクラフツ、2018年.
服部英雄『地名の歴史学』角川書店、2000年.
平凡社『日本歴史地名大系』全50巻、1979-2003年.
吉田東伍『大日本地名辞書』冨山房インターナショナル、全8巻、1900-1913年.
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