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「パッチワークスペルズ」 第2話 穢れを知らぬなら

人物表

エルマ=ミニーミニー(4・15)魔女
ダンデラ(?)ぬいぐるみ
レグルス=フォレノア(20)薬売り
ドロシー(17)魔女
ルシル=フランシュ(15)村人
ダグラス(35)狩人
シーザー(26)狩人
マリア(52)エルマの祖母

本文

○(回想)ミニーミニー家・外(朝)
パジャマ姿のエルマ=ミニーミニー(4)が、ダンデラ(?)を抱えて庭の花壇の前に立っている。
エルマ「あー!」
エルマは花壇に植えられた花を見てがっかりした表情を浮かべる。花には二匹の虫がついており、花弁を食べている。家の中からマリア(52)が出てくる。
マリア「どうしたんだ? エルマ」
エルマ「みてー、花食べられちゃってる」
エルマが花壇を指差す。
マリア「うわ、本当だねぇ」
エルマ「やっと咲いたのに……」
マリア「春だからね。虫も出てくるさ」
エルマ「ねぇおばあちゃん。こういう時、クジョしないといけないんだって」
マリアは花を食べる虫をじっと見る。
マリア「いや、そっとしとこう」
エルマ「えー、なんでよ! エルマ、図鑑で読んだんだよ! クジョしないと他の花も全部食べられちゃう!」
マリア「また育てりゃいいさ。虫も生きるのに必死なんだよ」
マリアはエルマに視線を合わせるようにしゃがみ込み、エルマの頭を撫でる。
マリア「エルマ、正しくあろうとしたって心がすり減って行くだけださ。優しくありなさい。エルマならそれができるから」
マリアはエルマの顔を見てニコッと笑う。(回想終わり)

○カロカラの森(夕)
背の高い木々が生えている森、雨が降っている。エルマ(15)とダンデラは道の脇に聳え立つ巨大な木の下で雨宿りをしている。
ダンデラ「うー……。雨で濡れて気持ち悪い……」
エルマ「なかなか止まないね……」
ダンデラ「エルマ、晴れたら洗濯してくれないか……?」
エルマはダンデラを見て気まずそうな表情を浮かべる。
エルマ「……前までだったら洗濯しやすかったけど、今はやりづらいな……。干されてる姿とか見てられないよ……」
ダンデラ「気にすることない。ぬいぐるみにしか分からんのだ。天日干しを超える幸福なんてないんだぞ」
エルマ「そうなんだ……」
雨が降り続いている。エルマが木の下からボーッと空を眺めていると、いつの間にかエルマの隣に、黒いマントで身を包んだレグルス=フォレノア(20)が項垂れるように座っている。
レグルス「エルマ=ミニーミニー」
エルマ「うわっ!」
エルマは驚いた様子で咄嗟に立ち上がりレグルスから距離を取る。
エルマ「だ、誰!?」
エルマは動揺した様子でレグルスを見る。
ダンデラ「……」
レグルス「エルマ=ミニーミニー、だな」
エルマ「えっ、あ、そ、そうですけど……」
レグルス「……悪い。移動する時はいつもコレなんだ。驚かせるつもりはなかった」
レグルスが顔を上げる。レグルスの真っ白な髪が顕になる。
エルマ「……あっ!」
エルマは何かに気づいた様子。
エルマ「ベロニカの隣で薬草とか売ってた人! じゃ、ないですか……?」
レグルス「よく見てるな。その通りだよ」
エルマ「毎日ベロニカに行ってたんで、そんな気がしたんです」
ダンデラはレグルスをじっと見る。
ダンデラ「……村から来たのか。お前、狩人か?」
エルマの顔が強張る。三者の間に緊張が走る。
レグルス「……あんな愚劣共と一緒にするな。安心してくれ。敵意を持って近づいた訳じゃない」
ダンデラがゆっくりと立ち上がる。
ダンデラ「……やはりそうか。ぬいぐるみの私が喋っていても何の疑問も抱かないその様子」
エルマ「……ッ!」
レグルス「……ん? あぁ、そうか」
エルマ「貴方も、魔族なんですね……!」
レグルス「……そうだな、普通は驚かないといけない所だったな」
ダンデラ「最初から油断してただろ。魔力がダダ漏れだぞお前」
レグルス「……あぁ、俺はレグルス。君たちと同じ魔族だ」
エルマ「あの村に、私以外に魔族がいたんですね……」
ダンデラ「それで、エルマに何の用だ」
レグルス「……まずは場所を変えよう。雨は嫌いだ」
レグルスは裾から杖を取り出す。
レグルス「ティナ・ノヴァリア」
レグルスが呪文を唱えながら杖を振る。エルマはポカンとした表情でレグルスを見ている。
エルマ「え?」
次の瞬間、辺り一体が暗闇に包まれる。

○ファルファラの古城・客間(夕)
エルマ、ダンデラ、レグルスの三者は、いつの間にか古びた城の客間にいる。室内はボロボロで壁には穴が空いている。レグルスは落ち着き払った様子で椅子に座る。エルマは理解しきれていない様子。
エルマ「な、何!? 今の!?」
レグルス「俺にしか使えない魔法だ」
エルマ「魔法って、そんなこともできるんですね……」
レグルス「むしろこれが本領だよ」
ダンデラ「……ここは?」
レグルス「廃城だよ。人には見つからないようにしてるから安心してくれ。……君たちに接触したの理由は研究と目的のため何だ」
エルマ「なんですか……? 全然分かんないんですけど……」
レグルス「一つずつ行こう。……さっき見せた俺の魔法。あれを使うためには杖が必須なんだ」
エルマ「杖……」
レグルス「杖は魔力を狙った場所に放つための魔道具。魔力が水だとしたら杖はジョウロといった所だな」
レグルスがダンデラに向けて杖を向ける。
ダンデラ「ん?」
レグルス「ドライワークス」
レグルスが呪文を唱えながらダンデラに向けて杖を振ると、ダンデラの身体から水分が抜けていき、全身がフワフワになる。
ダンデラ「おいエルマ! 干された時みたいに気持ちいいぞ!」
エルマ「え!? 今ので!?」
ダンデラ「コイツいい奴かもしれないぞ」
レグルス「杖だけじゃ魔力を放つだけだ。そこに言葉のイメージを付与した魔力を放つことで、より創造的な魔法を使えるようになった。これが呪文だ」
レグルスはダンデラに近付き、ダンデラの目をじっと見る。
レグルス「……しかしエルマ、君は杖ではなくただのぬいぐるみで、呪文に満たないの言葉で魔法を使っている。とても興味深い存在なんだ」
ダンデラ「ただのぬいぐるみって言ったか?」
エルマ「……でも、私だってよく分かってないですよ。ダンデラが言ってたのは……」
ダンデラ「言葉には魔力が宿る。話しかけ続けてくれたから魔力が蓄積して動けるようになった」
ダンデラがエルマの言葉に被せて言う。
レグルス「確かにありえない話じゃないな。だが言葉に宿る魔力は微々たるもの。何年話しかけたとしても、こうも断続的に動けるのは考えられない」
エルマ「うーん……」
レグルス「……そう。理由の一つ。君たちを研究させて欲しい。そしてもう一つ……」
一枚の紙が、壁に開いた穴から鳥のように飛びながら室内に入ってくる。紙の鳥は、レグルスの手に留まると手紙となり動かなくなる。
エルマ「それは……?」
レグルス「手紙鳥だ」
レグルスは手紙に目を通す。
レグルス「丁度いい。向こうも準備が整ったみたいだ。歩きながら話そう」

○同・廊下(夕)
ダンデラを抱えたエルマが、レグルスの一歩後ろを歩いている。廊下も客間と同様ボロボロで薄暗い。
レグルス「俺たちの目的は魔族の保護、それと……」
エルマ「あっ、それ私も考えてました!」
エルマがレグルスの言葉を遮る。
ダンデラ「……俺たち?」
レグルス「言ってなかったな。この城には俺以外に三人魔族が住んでるんだ。俺と姉と保護した魔族二人」
エルマ「え! そんなに!」
レグルス「……まだまだだ。同胞達は世界中で苦しんでいる。早く俺達が救ってやらなくちゃいけない」
エルマ「レグルスさんはすごいですね……。私も同じ魔族なのに……」
レグルスは扉の前で立ち止まる。
レグルス「入るぞ」
ドロシー「はーい!」

○同・寝室(夕)
扉を開けて寝室に入るレグルスとエルマ。十畳ほどの広さの室内は全面の壁が植物で覆われており、天井からも植物がぶら下がっている。
エルマ「うわぁ……」
ドロシー「君が! エルマだね!」
室内ではドロシー(17)が植物を椅子のようにして腰掛けている。ドロシーはピンクの髪色で眼鏡をかけている。
ドロシー「私、ドロシー! 私も魔族!」
エルマ「エルマです。この子がダンデラって言います」
ダンデラはドロシーに向かって軽く手をあげる。
ドロシー「うわぁ! ホントだったんだね! ぬいぐるみを使う魔族がいるって!」
ダンデラ「そんなに珍しいのか」
ドロシー「初めて見たよ!」
レグルス「ドロシー、準備できたんだろ」
ドロシー「そ! 案外すぐ見つかったよ!」
ドロシーが杖を取り出す。植物が蠢き出す。
レグルス「……エルマ、君達も目的のために一緒に来て欲しいと考えている」
レグルスが改まった様子で話す。エルマは不思議そうな表情を浮かべる。
エルマ「……?」
レグルス「……大したものじゃないが、これを受け取って欲しいんだ」
ドロシー「いくよ!」
レグルス「見てくれ、エルマ」
ドロシーが杖を思い切り振ると、壁の中から手足を植物で拘束されたダグラス(35)とシーザー(26)が現れる。二人は生気を失ったかのような表情でか細く呼吸をしている。胸部には薔薇の花が突き刺さっており身体に寄生している様子。
エルマ「……ッ!」
エルマは血の気が引いたような表情。
ダンデラ「……」
ドロシー「じゃーん! すごいでしょー!」
レグルス「プレゼントだ」
エルマ「な、なんですかこれ……」
レグルス「君を殺そうとしていた二人だろ。 違ったか?」
エルマ「そうだけど……! この二人はもうダンデラが懲らしめたし……」
ドロシー「えぇ? エルマって優しい子なんだねー?」
レグルス「……エルマ、俺たちの目的は魔族の保護。そして人間の淘汰と魔族社会の形成だ」
エルマは何も言えないままダグラスとシーザーを見ている。二人の僅かな呼吸音が聞こえる。

×××(フラッシュバック)
ルシル「ごめんね、エルマ……!」
×××
シーザー「しっかし惨めだなぁ。魔族が人間と友達になれるとでも思ってたのか?」
ダグラス「やめろシーザー。魔族なんかに同情するな」
×××

ドロシー「……この二人がエルマを殺そうとしてたんでしょ? 人間の癖に」
レグルス「人間は劣等種なんだ。魔力で正しさを見せてやれ」
エルマ「……!」
エルマは冷たい目でダグラスとシーザーを見る。

第3話


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