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「パッチワークスペルズ」 第3話 ただ幼すぎたのか、それとも君が変わったのか

人物表

エルマ=ミニーミニー(15・17)魔女
ダンデラ(?)ぬいぐるみ
レグルス=フォレノア(20)魔導士
ドロシー(17)魔女
ダグラス(35)狩人
シーザー(26)狩人
ルシル=フランシュ(15)村人
マリア(52)エルマの祖母
アーノルド(8)魔族
狩人

本文

○ファルファラの古城・寝室(夕)
全面の壁が植物で覆われた室内。エルマ=ミニーミニー(15)は、植物で壁に拘束されているダグラス(36)とシーザー(26)を見て立ち尽くしている。ダグラスとシーザーに意識はなく、胸には薔薇の花が寄生しており、か細く呼吸している。エルマの足元にはぬいぐるみのダンデラ(?)が立っており、その後ろにはレグルス=フォレノア(20)とドロシー(17)が立っている。エルマは目の前の
光景を呆然と見ている。
レグルス「人間は劣等種なんだ。魔力で正しさを見せてやれ」

×××(フラッシュバック)
ルシル「そっ、そんな魔法だったなら……! こんなことしなくたって……!」
×××

ドロシー「私たちは魔族なんだよ? 選ばれた種族なんだよ?」
俯くエルマ。次第に呼吸が荒くなる。

×××
シーザー「しっかし惨めだなぁ。魔族が人間と友達になれるとでも思ってたのか?」
ダグラス「やめろシーザー。魔族なんかに同情するな」
×××

レグルス「もう死にかけてるんだ。殺せるチャンスは今しかないぞ」
エルマの荒い息遣いが聞こえる。

×××
マリア「正しくあろうとしたって心がすり減って行くだけださ。優しくありなさい。エ
ルマならそれができるから」
×××

エルマは意を決したように顔を上げる。
エルマ「ダンデラ、二人を……」

○同・外観(夕)
辺り一体は霧が濃くとても静かでる。静寂と霧に包まれた城から、突然爆音が響く。城の一部が崩れ、瓦礫が落ちていくのが見える。

○同・寝室(夕)
植物で囲まれた室内、壁には大きな穴が空いている。穴の前にはレグルスが座り込んでいる。その隣には繭状の植物に包まれたドロシーが立っている。
レグルス「……大丈夫か?」
ドロシー「うん」
ドロシーが繭の中から出てくる。
ドロシー「逃げちゃった?」
レグルス「あぁ……」
レグルスが前を見る。植物で壁に巻きつけられていたダグラスとシーザーの姿がなくなっている。
レグルス「人間を連れて逃げた」

○同・廊下(夕)
エルマと獣人姿のダンデラがボロボロの廊下を走っている。ダンデラはダグラスとシーザーを物ともしないように軽く担いでいる。ダグラスとシーザーは虫の息で、胸には薔薇の花が刺さっている。
ダンデラ「エルマ、この後はどうするんだ?」
エルマ「とりあえず城を出よう。もしかしたら、まだ私の魔法で助けられるかもしれないし……」
ダンデラ「……あの男が言ってたことを覚えているか?」
エルマ「え? ……どれのこと?」
ダンデラ「この二人は死にかけてる。もしかしたらもう……」
レグルス「エルマ」
ダンデラの言葉を遮るように、突然レグルスとドロシーがエルマの目の前に現れる。
エルマ「……ッ!」
レグルス「見せたはずだろ。俺は移動魔法が得意なんだ」
エルマ「ど、どいてください! 私は貴方たちと一緒には行けません!」
レグルス「……残念だが仕方ないな。無理強いはしない。……だが、そいつらは置いていけ」
レグルスがダグラスとシーザーを指差す。
エルマ「……それもできません」
エルマはレグルスを強く睨む。
レグルス「……考えてみろ。そいつらは狩人だ。命を奪って生きてきたような下衆だぞ。狩られる側に立っただけだ」
エルマ「……そんなの私には関係ない。私はこの二人を助けたいから助けるんだ!」
レグルスは呆れたように笑う。
レグルス「なんだ、優しさか? 優しさで身を滅ぼしてちゃ仕方ないだろ」
レグルスがドロシーを見る。
レグルス「やれ」
ドロシー「はーい」
ドロシーが杖を構える。エルマは咄嗟に身構える。
レグルス「優しさだけじゃ理想は実現できない。理想は相応の力を持って初めて語ることが許されるんだ」
ドロシー「ティナ・プラグロ」
ドロシーが呪文を唱えながら杖を振る。次の瞬間、ダンデラが担いでいたダグラスとシーザーの胸に刺さっていた薔薇が強制的に成長する。
エルマ「はっ……?」
薔薇は床から天井まで大きく育つ。拳ほどの太さの茎はダグラスとシーザーの胸を貫いている。二人は絶命している。
ドロシー「うぇぇ、いたそー」
レグルス「あの時殺してやった方が幾分か楽に死ねたのにな」
エルマはダグラスとシーザーの死体にゆっくり近づく。
ダンデラ「エルマ……」
エルマはダグラスとシーザーの胸部、茎が突き刺さった部分に触れる。掌が仄かに光るものの、何も起こらない。
レグルス「……分かっただろ。力がなきゃ何もできない。優しさを振りかざすことも、力がなきゃできないんだよ」
レグルスは退屈そうに杖を取り出す。
レグルス「ティナ」
レグルスが呪文を唱えながら杖を振ると、レグルスの目の前に黒いポータルが現れる。
ドロシー「……エルマはいいの?」
レグルス「興味が失せた」
ドロシー「ふーん。じゃ私も戻ろ」
レグルスとドロシーがポータルの中に入っていく。エルマは一瞥もせず、二人の胸元に触れている。依然茎は刺さったままである。
ドロシー「エルマ、バイバーイ!」
ポータルが消え、レグルスとドロシーの姿が無くなる。エルマは力無く腕をだらんと下ろす。
ダンデラ「……エルマ」
エルマはダンデラの言葉に反応を示さない。
ダンデラ「エルマ、エルマが心を痛める必要はない」
ダンデラがぬいぐるみに戻る。
エルマ「……言う通りだ」
ダンデラ「ん……?」
エルマ「強くなくちゃいけないんだ……」
ダンデラが下からエルマの顔を見る。エルマは怒りを露わにした表情で涙を流している。
エルマ「優しいだけじゃ何も意味がない」
エルマは強く手を握りしめている。
エルマ「……強くなろう。ダンデラ」
ダンデラはエルマの顔をじっと見ている。
ダンデラ「(M)……エルマ。私はあの日、君になんて声をかけてやればよかったのか、未だに分からないんだ」

○ペルニーダフォレスト(朝)
Tー二年後
深い森の中をアーノルド(8)が怯えた様子で逃げるように走っている。アーノルドの服は泥で汚れており、膝からは血を流している。
アーノルド「ハァ……ハァ……!」
アーノルドの背後には猟銃を持った狩人がいる。狩人は必死に逃げるアーノルドを余裕そうに追いかけながら、馬鹿にしたような表情を浮かべている。
狩人「森は狩人の庭だぜ? 魔族のガキが逃げ切れると思うか?」
狩人は挑発するかのように空に向けて猟銃を撃つ。アーノルドは銃声で足がすくみその場で転ぶ。
アーノルド「あぁッ……!」
アーノルドは倒れたまま膝を抑える。膝からの出血がより酷くなる。狩人はアーノルドを見下ろすように目の前に立つ。
狩人「ガキ一人殺すだけで金が貰えて、おまけに英雄扱いだ。楽な仕事だぜ」
狩人がアーノルドの頭部に銃口を向ける。アーノルドが狩人を睨むと同時に、アーノルドの周囲にあった木の棒が狩人に向かって飛んでいく。木の棒は狩人に当たるものの、狩人にダメージはない。
狩人「……惨めだな。可哀想に思えてきたよ。生きてるだけ辛いだろ。今俺が……」
狩人を覆うように影が落ちる。狩人がゆっくり顔を上げると、そこには獣人姿のダンデラが狩人を見下ろすように立っている。
狩人「なっ……! なんだっ……」
言い切る前にダンデラが狩人の腹部を殴る。殴られた狩人は銃を構えたまま吹き飛ばされる。
ダンデラ「……よく戦った、少年」
アーノルド「……き、君は?」
ダンデラ「私はダンデラ。魔力を与えられたぬいぐるみだ」
30m近く吹き飛ばされた狩人が、ボロボロな姿でなんとか銃を構えている。銃口の先にはアーノルドがいる。
狩人「あの……あのバケモンも殺せばもっと金貰えんじゃねーかぁ……?」
狩人は震える手で引き金に指を掛ける。
狩人「ハ、ハハ……纏めて死ねよ……!」
エルマ「リパルス」
次の瞬間、狩人の猟銃に魔弾が当たり、猟銃は大破する。
狩人「はぁ……!?」
狩人が力無く周囲を見渡すと、木陰に杖を持ったエルマ(17)が立っている。エルマはボブカットであり、二年前より身長が伸びている。
エルマ「まだ狩人っているんだな。何も変わってない」
狩人「おまっ、お前も魔族か……!」
エルマ「聞かなくても分かるでしょ」
狩人「お、俺を……殺すのか……?」
エルマは呆れた顔で狩人に近づく。怯えた様子の狩人は座ったまま後退りする。
エルマ「殺さないよ。人を殺すほどの魔法って結構魔力使うからね。でもこのままってわけにもいかない」
エルマは狩人に杖を向ける。
狩人「うわっ! やめろっ……!」
狩人は咄嗟に顔を腕で覆い隠す。
エルマ「記憶を貰うよ。もう狩りなんてできないかもね」
狩人「は……?」
エルマ「ファッター・ワッケン」
エルマが狩人に向けて、杖を振りながら呪文を唱える。狩人は座ったまま気を失う。エルマは杖をしまう。
エルマ「……よし」
エルマはダンデラとアーノルドの元に駆け寄る。
エルマ「終わったよ、ダンデラ」
アーノルド「……この人は?」
アーノルドは不安そうな表情でダンデラを見る。
ダンデラ「……私に魔力をくれた人だ」
エルマはアーノルドに視線を合わせるようにしゃがみ込む。
エルマ「君、名前は?」
アーノルド「あ、アーノルド……」
エルマ「私はエルマ。よろしくね、アーノルド。私も魔族なんだよ」
エルマはアーノルドに微笑みかける。アーノルドは目を伏せる。
アーノルド「……え、エルマは、魔族で嫌だって思ったことないの……?」
エルマは寂しげに笑う。
エルマ「……数え切れないくらいあるよ」
ダンデラ「(M)……私はあの日、エルマになんて声をかけてやればよかったのか、未だに分からないんだ」
エルマ「……でも、今は嫌じゃないんだ。目的があるからね」
アーノルド「目的……?」
エルマ「うん。私はね」
ダンデラ「(M)もし、もしあの時、何か言葉をかけてあげられたなら……」
エルマ「この世界から魔力そのものを無くそうと思ってるの」
ダンデラ「(M)エルマが、この力を呪うことなく生きていけたんじゃないか、って」


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