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➂ 本物の愛の見つけ方。 告白、私もダメンズウォーカーでした。

○ 私はどうして作家になったか。私の愛の遍歴
 テレビ局の人に、たとえば味噌汁のCMを作るとき、味噌汁そのままでは映像にしない。
 と聞いたことがあります。
 作った湯気を足して登らせ、着色料で色をつけ鮮やかにする。
 その方が映像としてみた時に、美味しそうな本物の味噌汁に見えると。
 
 たとえば、ここに三種類の味噌汁を並べます。
 ちゃんとおだしを入れ、本物の味噌を入れて作ったお味噌汁。
 たとえばテレビCMように作った、着色料で色を足し、湯気も科学で強く立て、本物そっくり、本物以上に本物らしく見える、偽の作り物の味噌汁。
 ただのお湯をお椀に入れただけのお味噌汁。

 どれが本物か、当ててもらうのです。
 一瞬、本物より本物っぽいCMように作られたお味噌汁を選んでしまいそうですよね。
 でも、子供の頃、おだしを入れお味噌を入れた本物の味噌汁を飲んだことのある人は、
「これです」
 と言って、本物を言い当てます。
 一瞬、本物以上に美味しそうに見える偽の作り物のお味噌汁を選んだ人も、味見して飲み比べてみると、
「これは違います。こちらが本物」
 と味でわかってやはり正解します。

 だけど、子供の頃からただの一度もお味噌汁を飲んだことのない人はどうでしょうか?
 本物以上に本物に見えるお味噌汁をこれ、と思ってしまうのではないでしょうか?
 だって、本物の味噌汁を飲んだことがないので、イメージだけでしかわからないのです。
 だから、本物以上に本物っぽいにせの味噌汁に騙されてしまいます。
 この話を持ち出したのは、まさしく私自身が偽のお味噌汁を選んじゃう人間だよな、と自分で思ったからなんです。


 私は子供の時、父の顔を知りませんでした。
 飲食店を手広く経営していた父は、家の外に女性を作り、何年も帰って来なかったのです。
 私が小学校一年生に上がった春です。
 学校帰り、ストーカーのように後ろからずっと付いてくる大人の男性がいて、怖かったア~~。
 走って帰りました。
 それが父だったんですね。
 父と母はまもなく離婚し、父親はそれまで交際していた女性と再婚しました。
 
 大人になった私は、恋愛を繰り返しました。
 それも付き合った男性は、みんな名うてのプレーボーイさんばかり。
 私は結婚に憧れていたんです。
 幸せで、おだやかで、温かい家族団欒。
 食卓を囲みながら家族で会話し、笑いあう。
 テーブルの上に灯っているのは、温かいオレンジ色の電灯。
 お父さんはナイターを見ていて、子供に野球のルールを教える。
 ひいきチームが点数を入れると、手を叩いて喜ぶお父さん。
「おーい、もう一本ビール」
「二本目のビールは、お祭りやイベントの時だけですからね」
 そんなつつましくも、なごやかで平安な楽しい生活。
 それがどんなに欲しかったか。
 でも実生活はまるで違いました。
 私がお付き合いした方は、恋愛中は楽しいのですが、夫や父として見た時には、まったく向いていないような方ばかりだったんです。
 最初に付き合った人だけが、誠実でやさしかった男性でした。
 私が働いていた飲食チェーンの社長の弟で、24歳の新人サラリーマン。
 深く私を愛して、包み込んでくれました。
 婚約同棲。
 結婚式を上げるだけだったのに、私は彼を裏切って、大学生だった夏樹(仮名)と浮気したのです。
 夏樹が好きでした。
 自分の気持ちを抑えられませんでした。
 ついには婚約者の彼と住んでいた家を出て、私は夏樹と逢瀬を重ねるためにアパートを借りたのです。
 でも夏樹が就職して社会人になると、彼には彼女が出来て破局。
 別れるまでの3年間は三角関係でどろどろでした。

 旅の雑誌を出す業界紙に記者として勤め、仕事で訪れた先の奄美で知り合った男性と、遠距離恋愛。
 2年付き合ったのちに結婚しました。
 奄美で結婚生活をスタートさせたのですが、彼は毎夜、毎夜、飲みに出かけて帰ってこないのです。
 私は彼の実家が経営する大きなスーパーで働いていましたから、私が家に帰ると同時に、彼は夜の街に出かけます。
 私が夢見た一家団欒の夜は、なかったのです。
 子供がお腹にいるのに離婚。
 奄美の家を飛び出して、鹿児島に。
 お腹が目立つようになる寸前までキャバレーのホステスとして働き、鹿児島でアパートを借りました。
 子供が5歳になると、生まれ故郷の関西に帰りました。
 保育園に預けて、パート勤め。
 でも生活費が足りず、かつかつの超貧乏生。
 そこで私は、
「そうだ、作家なら子供が寝ている間に文章を書いてお金をもらえるかもしれない」
 と思いつくのです。
 9時に子供が寝ると、静かな部屋で、夜中の2時3時まで原稿を書きました。
 そして出来上がった4本の原稿。
 一つは「石鹸と私」と言う懸賞論文。
 週刊誌が募集していた告白手記。
 月刊誌が募集していたHな告白手記。
 そして30枚の小説。
 これらを東京の出版社に送りました。
 すると、すべてが採用になり、原稿料が手に入ったのです。
 出版社は全部東京。
(東京に行くしかない!)
 と思った私は子連れで上京。
 掛け持ちでウエイトレスや販売員、色んなバイトをしながら、作家として小説を書き続けていました。
 その時仕事がらみのパーティーで知り合ったのが、作家のAさんです。
 彼は売れない作家でしたが、一軒家を持ち、どういうわけか裕福な暮らしをしていました。
 最初はよかったのです。
 それはそれはやさしく、私にも子供にもよくしてくれました。
 デートするといつもアパートの前まで送ってくれるのです。
 自分は部屋には上がらず、自宅に帰っていきます。
 プレゼントもかかしません。
 私の言うことは、すべて無条件で聞いてくれたのです。
 ところが、恋人になった直後、彼の態度は一変し、殴る蹴る罵るのDVが始まりました。
 すべて彼の嫉妬や妄想が原因です。
 あまりの変わりようが、信じられなかったくらいです。
 おまけに、独身だと言っていた彼が、結婚していて妻がいることがわかったのです。
 彼の住んでいる屋敷もなにもかもが、奥様の名義。
 付き合って5年後には別居していた彼の妻が、彼の家から徒歩1分のマンションに帰ってきて、どろどろで地獄のようでした。
 喧嘩して、
「二度と逢わないから! 別れる!」
 飛び出すと、夜の夜中に住んでいるマンションの扉を叩かれるのです。
「出て来ーい。開けないと近所中起こしてやるぞ」
 地獄でした。
 扉を開けると、彼と一緒に彼の妻も立っていることがありました。
 朝まで一睡もさせてもらえず、ファミレスで彼と妻の二人から罵られ続けて。
 彼らは、理不尽にも、
「あなたはこの人の支えになっていい作品を書かせると約束したんでしょう」
「そうだ! 別れるなんて約束違反じゃないか」
 と責めるんです。
 それでも逢わないと、電話が休みなくかかってきて、
「お前がどんなにひどい女か、みんなに言いふらしてやる!」
「今からお前の部屋に乗り込む!」
 と脅され続けます。
 恐怖と苦悩でがたがた震え、食べ物も喉に通りませんでした。
 今思うと、私もあんまりな人生、男性関係を送ってますね。
 そしてご推察の通り、彼は時として頭を下げ号泣して謝り、
「もうお前を決して傷つけないから。お前を幸せにする事だけに全力をそそぐから」
 と誓うのです。
 彼から逃げ出せたのは、彼の暴力で流産したからです。
「嘘をついてるんじゃないか。騙そうとしているんだろう」
 外に追い回されて、あやうく死ぬところでした。
 これじゃだめだ。
 彼にきっぱりと見切りをつけて、夜逃げしたんです。
 あれから二十年。
 彼はもう、この世の人ではありません。
 その他にも、実業家のOさんとの不倫。
 プロダンス教師のSさんとの7年間の熱烈不倫恋愛。
 共通しているのは、最初の夏樹にしても、その後夫となった彼にしても、作家のAさんOさん、Sさんにしても、みんな、ものすごくモテた女性関係が多いプレーボーイの人ばかりだった、と言うことです。
 私は誠実に接してくれる男性を知らないから、そんな方ばかり選んでしまったんじゃないかしら。
 味噌汁の味を知らないから、偽の味噌汁を選んでしまう?

 すごく悩みました。
 
 ある時、私が心中、
(とてもステキだな。魅力的だわ)
 と思っていた男性がいました。
 女友達の亜紀に打ち明けると、
(えーっ、すごくキザで信用できない人に見える)
 一言のもとに拒否反応を示していました。
 一年立つと、亜紀の言う通りの、キザで口が上手いだけの、信用できない男性だと、わかりましたが。

 亜紀のように、私が魅力的と思うことを、信用ならない、と見抜ける女性もいるんだ。
 しかも即座に。
 これは驚きの発見でした。
 きっと亜紀は、本当に誠実でやさしく、言動や態度がずっと変わらない男性を身近に見てきたのでしょう。
 
 ならば、私に幸せは永遠に来ない? 
 私が真に望む愛は、手に入らないの?
 いや待てよ、と私は思います。
 決してそんなはずはないんです。
 本当の、自分の心が安らぐ愛の形を、知らないわけじゃないんです。

 おだやかで、急に怒り出したりせず、いつもやさしい眼差しで見つめてくれる男性。
 少々いやな仕事でも、家族のためと、一生懸命働いてくれるお父さん。
 決して手をあげたりせず、
「僕はこう思うから、こうしてくれたら助かるな」
 と自分のして欲しいことをおだやかに伝えたり言ってくれる男性。
 私だけを愛して、決して他の女性に目を移したり浮気をしたり、私を裏切ったりしない人。
 嘘をつかず、子供にも私にも誠実に接してくれる人。
 喋ることはうまくなくてもいい、隠されたユーモアーのある性格の人。
 そんな男性との、和気あいあいとした心やすらぐ愛に満ちた暮らしを、求めているのです。
 思いと違った男性を選んでしまって、ジェットコースターのような人生を送り、
(この状況って、私が本当に求めているもの?)
(何かが違うんじゃない)
 ふと気づく瞬間もあるんです。
 なのに、抜け出せない。 

 私たちは、幸せを感じる愛の形を知っている。
 決して知らないんじゃない。
 いつも思い描いている。
 求めて求めて、求め抜いているのに。
 じゃなぜ愛しすぎる女は、望まぬ方向にわざわざ行って、失敗を繰り返すの?
 不思議ですよね。
 聡明で、美しい彼女達がなぜ、わざと幸せではない方の道を選んで行っているように見えるのは?

 その謎を、これから解いていきたいと思います。

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