DADLA第一回:『競走馬の科学』

ごあいさつ

 皆さんの地位は何ですか?私はギリギリstudent / B'sです。この春に晴れて大学を卒業して社会人となるのですが、私には一つだけ心配なことがあります。それはせっかく大学で学んで手に入れたものが、社会の荒波に揉まれて消えてしまうのではNAIKA MC(←最近の若者なのでラップバトルが好き)ということです。

 幹事長を勤めたサークルは信頼していた後輩のスキャンダルによるゴタゴタで面倒になり辞め、リボ払いでの借金が20万近くあり、卒論提出後に内定先に内定をひっくり返されたので2月に求職活動を行いなんとか採用通知をもらい、そもそも大学入学前に2年浪人してるし……こんなカスみたいな人生を送ってきた僕に一つだけ他の大学生より優れていることがあるとすれば、闇のリベラルアーツに対する防衛術を修めたことくらいなものです。

 闇のリベラルアーツに対する防衛術(Defense Against the Dark Liberal Arts: DADLA)とは、ひろ○きとかホリ○モンとのような人間が得意とするコスパコスパ言って人生を椅子取りゲームであるかのように騙そうとしてくる闇のリベラルアーツから身を守り、薄暗くてイカくさい部屋の中でシコシコ人文学を修めるための修練です。魔法省肝入りの科目であり、これを専門としていなければ科研費は取れないとされています……

 しかしそんなDADLAの学士号を習得見込みの私であっても、このまま卒業して3年も経ってしまうと、そのうち脳みそが腐り落ちてしまいティックトック(牝4歳、栗東・松田正弘厩舎、父サッカーボーイ)の女が腰を振る動画に併せて腰を振る機械になってしまうのではないかという危惧があります。

 私が長期休みで主にしていることと言ったら、昔読んだなろう小説とかやる夫スレを読み見返す、シコる、寝る、ウイニングポストくらいしかありません。なので週1くらいで本を読んでその感想をネットにうpしようと思います。では、イクゾー!

『競走馬の科学』

 本のセレクトが全然リベラルアーツっぽくない?うるさい!!

 本書は2006年に出版されています。2006年といえば、競馬に詳しくない皆さんでもご存知のディープインパクトが三冠馬となった翌年です。ディープインパクトは三冠でいう二冠目の日本ダービーの時に競馬場に等身大フィギュアが建てられたほどの人気と実力を兼ね備えていた馬なのですが、このような本が講談社ブルーバックスから出たことも含めて当時のディープインパクト旋風を窺い知れますね。

 内容としては、サラブレッドにまつわる様々な情報を網羅的に記したものとなっています。競走馬の骨格についてや、馬がどのような生物から進化してきたのかといった部分はとても興味深いものでした。反面いわゆる血統に関する記述はかなり少なく、馬産についての節があるにもかかわらず「インブリード」という単語が一度も出てこないのはどうかと思いました。

 インブリードとは、簡単に言うと近親交配のことであり、競馬においてはだいたい5代前(曽祖父の2段上)までの血統表に同一の馬がいるとインブリードが発生しているとします。日本ではイトコ婚(祖父を同一とする異性との結婚)が許されていますが、競走馬でいうとハトコ婚(曽祖父を同一とする異性との結婚)から危険であるとされており、そのあり方はかなり異なっています。

 というのも、競走馬は人間とは異なりこれまでずっと近親交配を繰り返してきたためにそもそもの遺伝子プールがかなり狭いため、少しの近親交配でも健康上の被害が出やすいわけです。一例を挙げると、現存の競走馬で1935年にイタリアで生まれたネアルコという競走馬の血を持たない馬はほとんどいないとされています。なお一種のアスリートでもあり健康であることそのものに価値がある競走馬とは違い、犬は愛玩動物であるため見目麗しい犬の間での近親交配が横行しており、ブルドックは頭が大きくなりすぎて帝王切開でしか生まれてくることができないようです。人間とはかくも業が深いものなのですね。

 さて、この本が生まれた背景にあるディープインパクトもまた近親交配によってその地位が脅かされています。というのもディープインパクトは競走馬の父としても偉大であり優秀な競走馬を多く残したのですが、そのせいで日本にはディープインパクト、またディープインパクトの父や母をその血統の中に持っている馬が大量にいるからです。そのような遺伝子プールの中でディープインパクトの直系(なお競走馬は男系で続いていなければ子孫と捉えません。フェミニズム頑張って!)が生きていくのはかなり難しいことです。

 そして皮肉なことに偉大な競走馬にして偉大な競走馬の父であったディープインパクトは血統の中にインブリードが存在しない(=アウトブリード)馬なのです。ディープインパクト旋風の中で生まれてディープインパクトを讃えているこの本にインブリードという言葉がないという牧歌(馬歌?)的な事実は、ディープインパクトという偉大な馬が日本の競走馬の血統地図を歪める前であったからだと言えるかもしれません。
(1243字)←レポート書くときの癖で字数書いちゃった!

おわりに

 資料を歴史的に捉えるとはこういうことなのです。私はこの文章を書きながら、「そういや歴史学で卒業論文を書いてたんだった」と思い出しました。最近はすっかり歴史から遠ざかっていましたしね。ただ大学で4年間まともに学べば、この程度の文章を捻り出すことなど朝飯前になり、リアペや小レポートに困ることは無くなるというものです。ちなみに魔法省はこうしたカス文系大学生のノウハウを「闇のリベラルアーツ」と認定し、文系学部への数学の導入を促進することを決めたみたいです。

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