【トレーシングレポート#16】アスピリン錠の中止を提案
「この患者さん、労作性狭心症で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)をうけたあと、抗血小板薬 2 剤併用療法(DAPT)が 半年以上つづいてる。出血リスクを考えると、抗血小板薬をひとつ中止したほうがいいかもしれない。」
DAPT を実施している患者さんに服薬指導をしている時、このように思うことはないでしょうか。
DAPT は PCI 後の血栓を予防するために行われます。明確には定まっていませんが、「高出血リスク(HBR)をふまえた PCI 施行後の抗血栓療法(2020 年 JCSガイドラインフォーカスアップデート版.冠動脈疾患患者における抗血栓療法.日本循環器学会)」 によると、その継続期間は最長のケースで 12 ヶ月です(冠動脈の石灰化、不安定プラーク、ステントの留置部位などを考慮し、12 ヶ月以上継続したほうがよいケースもあります)。
DAPT は出血リスクを増加させます。さらに、日本を含む東アジア地域では欧米よりも出血リスクが高く、血栓リスクは低いことが報告されています。そのため、日本循環器学会は出血リスクを優先して薬剤を決定するのが妥当であると示しています。
しかし実際には、抗血小板薬が減量されることなく出血リスクが高いままになっているケースに出会います。頭蓋内や消化管などに重篤な出血が起こると患者さんの QOL を大幅に低下させる可能性があり、時に致命的な経過をたどることもあります。もし不要な投薬であれば、可能な限り中止したいですよね。
では薬局で、どのように出血リスクを評価し、どういった場合に減量を提案すればよいのでしょうか。
参考になるのが、前述のガイドラインに記載されている「日本版高出血リスク(HBR)評価基準」です。
こちらの評価基準では、
主要項目:低体重(男性<55kg 女性<50kg)、フレイル、CKD(eGFR<30mL/分/1.73m2)、透析、貧血(Hb<11g/dL)、心不全、抗凝固薬の長期服用、PVD(抹消血管疾患)、非外傷性出血の既往、脳血管障害(特発性脳出血の既往、12ヵ月以内の外傷性脳出血、脳動静脈奇形の合併、6 ヵ月以内の中等度または重度の虚血性脳卒中)、血小板減少症、活動性悪性腫瘍、門脈圧亢進を伴う肝硬変、慢性の出血素因(入院または輸血を要する消化管出血や尿路出血などの既往。特に 6 ヵ月以内の出血の既往例や再発例)、DAPT 期間中の延期不可能な大手術、PCI 施行前 30 日以内の大手術または大きな外傷
副次項目:eGFR 30~59mL/分/1.73m2、75歳以上、Hb 11~12.9g/dL(男性) 11~11.9g/dL(女性)、NSAIDs もしくはステロイドの長期服用、非外傷性出血の既往(入院または輸血が必要な 6~12 ヵ月以内の初回の非外傷性出血)、脳血管障害(主要項目に該当しない虚血性脳卒中の既往)
があげられており、主要項目を 1 つ、あるいは副次項目を 2 つ満たした場合に高出血リスクと定義されます。
出血リスクの検討は大変そうにみえますが、実はそうでもありません。
主要項目を 1 つでも満たせばよいので、低体重の人、腎機能が高度に低下している人、心不全を合併している人、抗凝固薬を長期服用している人などは、それだけで該当することになります。また副次項目であれば、75 歳以上、腎機能の中等度低下、NSAIDs もしくはステロイドの長期服用、などは該当するケースが多いです。薬局でも比較的容易に確認できるのではないでしょうか。
少なくとも、このような高出血リスクに該当し、ガイドラインにおける推奨 DAPT 継続期間を越えて投薬をうけているケースについては、医師に減量を提案したほうがよいと考えています。
次に問題となるのは、アスピリンか、クロピドグレルやプラスグレルなどの P2Y12 受容体拮抗薬か、どちらを残すのかです。
血栓リスクを考慮した総合的な判断が必要であり、いまだ明確な結論は出ていません。しかし、低用量アスピリンによる消化管出血および頭蓋内出血合併のリスクを軽減し、血栓イベントリスク抑制効果を維持するために、アスピリンではなく P2Y12 受容体拮抗薬を継続する治療法が検討されるように なっています。特に、消化管出血のリスクが高いケースでは P2Y12 受容体拮抗薬を残すことが多いようです。
さて、冒頭のように考えた時、薬剤師としてのアセスメントをどのように医師に伝えているでしょう。
疑義照会でしょうか?
それとも、トレーシングレポートでしょうか?
わたしのおススメはトレーシングレポートです。
トレーシングレポートは、すぐに対処する必要性は高くないものの、検討する価値がある提案を医師に伝えたい場合にとても有効です。
トレーシングレポートは 1 通目を出すハードルが最も高いです。
ただ、その一歩さえ踏み出せられれば、薬剤師として新たな役立つ武器を手に入れたことになります。今まで関わることが難しかった部分にも触れられるようになるので、仕事の質が変わるのです。
それは、あなたの薬局にくる患者さんに提供できる医療の質が向上することを意味します。
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以下が有料部分についての概要です。
【処方および提案内容など】
70代後半 男性
1.アスピリン錠100mg 1 錠
1 日 1 回 朝食後 28日分
2.プラスグレル錠3.75mg 1 錠
1 日 1 回 朝食後 28日分
3.ランソプラゾールOD錠15mg 1 錠
1 日 1 回 朝食後 28日分
4.アトルバスタチンOD錠10mg 1 錠
1 日 1 回 朝食後 28日分
5.硝酸イソソルビドテープ40mg 28 枚
1 回 1 枚(1 日 1 回) 胸部、上腹部又は背部のいずれかに貼付
・現病歴:狭心症
・既往歴:胃潰瘍
・併用薬:なし
・肝機能障害:なし
・腎機能障害:eGFR 50 mL/分/1.73m2
・喫煙:なし
・体重:50kg
・処方提案の内容 :アスピリン錠100mg の中止
・提案結果 : 上記薬の中止
・その後の経過 :特に問題なし
【参考文献】
2020年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
日本循環器学会
【特徴】
・薬剤師と患者さんのやりとりを会話形式で記載
・上記を基に作成したトレーシングレポート
【対象】
・トレーシングレポートを使って処方提案をしてみたいとは思うものの行動を起こせずにいる方
・トレーシングレポートの文章が書けずに困っている方
・患者さんから情報を聞き出すことや、医師への情報提供にあたっての同意をとることに難しさを感じている方
【対象外】
・疑義照会で十分な処方提案ができると確信している方
・患者さんから欲しい情報を難なく情報収集できる方
・医師に向けて文章を書くことに難しさを感じていない方
最後に…
日々の業務の中で「疑義照会でガイドラインに基づいた処方提案をするは難しい」このように感じているのではないでしょうか。
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