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疑義照会の弱点、トレーシングレポートの利点 ~疑義照会が処方提案に適さない3つの理由~

どこの町にもあるような薬局で働いている
ごく普通の薬剤師のあなたへ。

もっと薬剤師の専門性を活かしたい。

もっと医師に自分の考えを伝えたい。

何より、もっと患者さんに寄り添った医療がしたい。


そんなことを考えながら、毎日働いていませんか?


大きな設備投資も、新たな認定資格も必要なく、あなたと患者さんと医師が強い信頼関係で結びつく。それを叶える方法があります。

それは、服薬情報提供書(トレーシングレポート)を使って処方提案をすること。たった 1 枚の紙が、あなたの願いを実現します。 

【疑義照会の弱点】

「トレーシングレポートで処方提案か…でも、文章を書くのも面倒だし、疑義照会でやればいいんじゃないの?」

たしかに、薬剤師の見解を医師に伝える機会として、まず頭に浮かぶのは疑義照会だと思います。投与禁忌、用法用量の明らかな誤り、他医療機関から処方されている薬剤との重複、などが発覚した際は医師に疑義照会をします。

このように、疑義照会をするケースというのは「このまま処方箋どおり患者さんに薬を渡すには、医療安全の観点から疑問が残る」という場合、つまり緊急性が高いケースが多いです。

一方で、緊急性の乏しいケースで疑義照会をすると、うまくいかないことが格段に多くなります。

その理由は、以下の3つです。


【1.極めて多忙な医師】

外来診療中の医師は、とても忙しいです。診察室に順に呼び込む患者さん以外に、検査を終えて再度診察室に戻ってくる患者さんや、急変した入院患者さんの診察や処置もあります。他にも、検査のオーダー、急な紹介状の作成、患者や家族からの電話対応など多くの業務を、時間に追われながら行っています。

そのような慌ただしい業務の中で、突然かかってくる薬局からの疑義照会の電話。しかも、その内容は今すぐに対処しなくても問題のない類のもの。わずかな時間も惜しんで取り掛からなくてはいけない案件が山積みの中、緊急性に乏しい内容の疑義照会に対しては、「そのままで」と回答してしまう医師の心情も理解できるのではないでしょうか。

【2.滞る業務、待たされる患者】

疑義照会をする前に、あらためて情報を調べなければいけない場合があります。当然、自分がそれに取りかかっている間、薬局内の他の業務は滞ります。そして、ようやく疑義照会をした後も、医師からの返事待ちの時間が生じることも多いです。何十分、時にはそれ以上待たなければいけないこともあります。

その間、患者さんもずっと待つことになります。緊急性の高い内容の照会であっても、患者さんの不満や苛立ちは生じやすいです。緊急性の低い内容であれば、なおさら「もうそのままでいいから、薬を出して!」と言いたくもなるでしょう。疑義照会がうまくいかないのは、薬剤師 - 医師の問題に留まりません。

【3.すでに終わっている診察】

(医師)診断・診察 → (医師)処方箋発行 → (患者)来局 → (薬剤師・医師)疑義照会 → (患者)帰宅

この業務フローで動いている限り、疑義照会の時点で患者さんはすでに医療機関を後にしているため、医師は患者さんに直接診察して確かめたいことがあったとしても叶いません。薬剤師からの電話報告と、直前の診察で得た情報から判断せざるを得ないのです。

また、患者さんを診察室から帰しているということは「次回受診まではこの処方で大丈夫」と、医師が決断していることになります。もちろん緊急の場合は別ですが、他職種に提案されたからといって、そう簡単に決断を覆すことができないのも無理はありません。容易に変更してしまうことで、患者さんとの信頼関係に好ましくない影響を与えてしまう場合もあるからです。

【トレーシングレポートの利点】

このような理由から、疑義照会は緊急性の低い提案を行う場として最適だとは言い難いです。疑義照会は、患者さん・薬剤師・医師、三者にとって、とにかく流れが悪い。もともと、疑義照会は「処方中に疑わしい点がある場合」に実施するものなので、頻繁に実施されることは想定されていないのかもしれません。

そこで、トレーシングレポートの出番です。
トレーシングレポートは疑義照会の3つの弱点をすべて乗り越えます。

【1.余裕のある時に読める医師】

医師は、次回患者さんが受診する前にトレーシングレポートに目を通せばよいので、自分の好きなタイミングで読むことができます。突然かかってくる疑義照会の電話のように、医師の業務の流れを妨げることはありません。

また、疑義照会では、多忙な中で瞬時に決断を下す必要があります。しかし、トレーシングレポートであれば、余裕のある時間に腰を据えて検討することができます。

トレーシングレポートによる処方提案をはじめた際、ある医師に「正直暇な時間はない。しかし、外来診療中に疑義照会に対応することに比べたら、負担は全然違う。もう比較にならない。」と言われたことがありました。

【2.流れる業務、帰れる患者】

トレーシングレポートは、患者さんが次回診察を受けるまでに医師に読んでもらえればよいので、薬局の業務が落ち着いている時間に少しずつ進められます。薬学的な内容を存分に盛り込むこともできますし、資料を添えることもできますし、不安がなくなるまで内容を推敲することもできます。必要に応じて患者さんに電話をかけ、その場では聴取できなかった検査値などの追加情報を得ることもできるでしょう。薬剤師も医師も互いに忙しい中、口頭でやりとりする疑義照会よりも、はるかに密度の高いやりとりができるのです。

もちろん、患者さんの待ち時間は発生しませんから、不満や苛立ちは表れてきません。それどころか、自分がいない間に薬剤師や医師が自分の薬について相談してくれることに対して、患者さんからは感謝を表してもらえます。

【3.これから始まる診察】

(薬剤師)トレーシングレポート提出 → (医師)トレーシングレポートを読む → (医師)診察・診断 → (医師)処方箋発行 → (患者)来局 → (患者)帰宅

この流れであれば、医師はトレーシングレポートを読んだ上で患者さんの診察に臨めます。つまり、薬剤師の見解を医師が受け取ったあとで、診察が来るのです。患者さんは薬剤師と医師、両方の専門職の知見を踏まえた薬物治療が受けられるようになります。

また、疑義照会とは違い、薬剤師と医師、双方の業務の流れを妨げていません。あらかじめ存在していたかのように、とても自然な流れになっています。私は、これが医薬協業の理想的な形のひとつなのではないかと思っています。

【おわりに】

薬剤師の知見を医師に伝え、患者さんに寄り添った薬物治療を実施するために、トレーシングレポートはとても有効です。ぜひ、トレーシングレポートによる処方提案をしてみてください。

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