トヨタ自動車のデジタル変革!日本最強の自動車メーカーも苦難の連続だった!

やや旧聞に属するが、昨年、トヨタ自動車がSAPジャパンのカンファレンスで発表した内容について考察したい。

1935 年の設立以来、さまざまな変化に対応してきたトヨタですが、2018 年の世界の家電見本市( CES )では当時の社長であった豊田章男氏が「自動車産業は 100 年に 1 度の転換期」と危機感を口にし、「トヨタはカーカンパニーからモビリティ・カンバニーになる」と宣言しました。2023 年 4 月には新社長に佐藤恒治氏が就任して、新経営体制をスタート。豊田社長が浸透させてきたトヨタが大切にすべき価値観や商品と地域を軸にした経営を継承しながら、モビリティ・カンパニーへの変革スピードを加速しています。

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「自動車」の会社から「モビリティ(移動)」の会社に変身するとは、どういう意味かおわかりだろうか?トヨタ自動車は、従来は、品質の良い自動車を製造・販売して成長してきた。だが、自動車は、実際に乗車している時間(稼働率)は、極めて低いとの調査結果が出ている。大都市圏(東京・大阪・名古屋)か田舎かでも違うが、一般的には稼働率は4.2%だと言われている。富裕層で、レクサスやベンツ、BMWなどを「とにかく所有しておきたい」という人にとってはどうでもいい話かもしれないが、庶民にとっては稼働率4.2%のために何百万円もする自動車を購入して、車検などの費用も払うのはけっこう辛い。

レンタカーという手もあるが、トヨタ自動車は、「Kinto(キントー)」というサービスの提供を開始した。これは、契約期間内に他の車に「乗り換え」することもでき、非常にうれしいサービスだ。「買い替え」と比較して、非常にコストメリットが大きいだろう。

つまり、「自動車を製造して販売する」ではなく、「ユーザーの移動を助ける」会社へと、徐々に移行していく、ということなのだ。ヘビーユーザーにとっては所有欲があるだろうが、最近の若者にはこのようなサービスのほうが利用しやすいだろう。

他にも、トヨタ自動車は、Wovenという、街をつくろうとしている。自動車は、これから「コネクテッド」と言われ、信号機や自動車間でネットワークをつなぎ、相互通信をしながら事故を予防したり、街全体で渋滞を低減するなどの施策がとれるように進化していく。その実証実験のために、トヨタ自動車は街をつくるのだ。はっきり言って、これができるのは連結売上高が30兆円もあるトヨタだけだ。他社はここまでスケールの大きいことはできない。

そして、これだけビジネスモデルが変わっていくならば、トヨタにとってデジタル変革は必須であるのだ。自動車のサブスクリプションやコネクテッド技術の開発は、今までとは異なり、アジャイル開発が求められる。システム開発の規模が大きくなるだけではなく、「システム部門の組織風土・文化」も変革しなくてはならないのだ。いわば、御用聞きシステム部門では駄目で、積極的にビジネスモデル変革のために挑戦する組織でなくてはならないのだ。それが、以下に引用する、これからのデジタル人材として求められる要件をまとめたことに直結する。

マインド変革の加速に向けては、コミュニケーション心得や働き方ガイドを作成。デジタル人材として活躍したい人には 22 種のデジタル人材像を明示し、進むための道筋を示しました。さらに、デジタル人材の分類に応じたトレーニング体系も充実させました。

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だが、トヨタの道のりは長い。トヨタのような巨大で、歴史の長い企業は、業務プロセスを支えるシステムが複雑でスパゲッティのようにこんがらがっていることが多いのだ。

トヨタには現在、巨大で個別最適化された基幹レガシーシステムが約 800 存在しています。縦割り組織で長年にわたり継ぎ足してきた“秘伝のタレ”のようなシステム群は一朝一夕に変えられず、業務側もシステム側も限られた伝承者しか理解できません。モビリティ・カンパニーに向かうためには、既存のレガシーシステムを活用しながら、プロセスやオペレーションを変えていく必要があります。
このジレンマを解消するため、同社では「データオープン化」と「モダナイズ・スリム化」の二刀流を掲げています。データオープン化とは、縦割り組織でレガシーに眠っていたデータを全社にオープンして情報格差を解消すること。モダナイズ・スリム化は、ビジネスの変化に合わせて優先度を決め、ヒト・モノ・カネの観点で新たな挑戦へのリソースを創出することです。

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いやあ、驚いた。レガシーシステムが約800も存在している・・・しかも、これらのシステムは複雑に絡み合っているので、一部を修正すると障害が発生するリスクがある。そのため、既存のシステムがどのように構成されているのか、調査する必要があるだろう。これらのシステムを刷新するのに、いったい、何十億円、いや、何百億円の予算が必要なのかわからない。このように複雑怪奇なシステムだと、「あのデータがみたい」と思っても、すぐに対応できるものでもないようだ。

「現状のトヨタは組織の力が強く、他の部署のデータを使うだけでも、誰が、何のために使うのかを明示する必要があり、依頼書が飛び交い、調整会議が発生します。データは組織のものであることを総論では受け入れているものの、現場に行けば行くほど、自部署のデータが勝手に使われることを恐れ、誤った意思決定をされた場合は誰が責任を取るのかと躊躇してしまうのが現実です」(岡村氏)
そこで現在、情報システム本部が取り組んでいるデータオープン化のための仕掛けが、「データ図書館」と「情報ポスト」の 2 つです。データ図書館は、誰でもいつでもデータにアクセスして検索・利用ができる環境です。情報ポストは、商品軸(クルマ)で情報の蓄積や交流ができる場所のことで、リアルとバーチャルの融合を目指しています。

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現代は、データ(情報)は権力者によって独占されるものではなく、社員全員が自由に閲覧して、そのデータを使って様々な業務を遂行することが求められている。例えば、Tableau(タブロー)というBIツールを使って、社員が自由にデータを引っ張ってきて、分析する・・・このような会社もある。トヨタはまだまだ道半ばだが、日本最大・最強のトヨタがデジタルにも強くなれば、鬼に金棒であろう。

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