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小説

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小説と見せかけた日記のようなもの
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青、渋谷、新江古田

男は青のワンボックスカーに乗っていると言った。渋谷の公園通り沿いの指定された場所へ、私はスマホの地図を見ながら向かった。私は車の種類なんてわからないけれど、鮮やかな青色が目の前を通り過ぎて行った瞬間、すぐにそれだと気がついた。私は恐る恐る近づいて助手席のドアの窓を叩いた。

そこには目つきの悪い、素朴な見た目の男がだらしないTシャツ姿で座っていた。髪には金色が入っていた。
予定では男の住む新江古田

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六月の魚

この日も雨だった。
私はコンビニで買ったビニール傘を差して、歩き慣れた道を歩いた。サンダルを履いていたせいで、足は雨で濡れていた。

駅に着いた瞬間、男と目が合った。男の目は弱々しいようで、でもどこか遠くを見つめているような、深みがあるような、どこか儚げな優しさのようなものを感じた。

私は違ったとも、合っていたとも思わなかった。私は誰かを探していたけど、それはこの人だったかもしれないし、そうじゃ

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ウニのような頭

男はそっぽを向いてただ寝ていた。天窓からは光が差し込んで眩しい。とても寝ていられなかった。でも男の隣にいると少し安心した気持ちで、ここにいたいと思った。わたしが動いても男は動かない。時折寝返りを打つだけだ。それを少し寂しいと感じて男の体に寄り付くけれど、感じるのは体温の温かさだけだった。きっと、結局誰にも求められることはないのだと思う。いつも求める側なのだ。そしてその報酬が返ってくることはない。男

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手巻きタバコと読書

喫茶店でバナナタルトとストレートティーを注文し、本を読んでいたら一人の男の子と相席になった。髪が長くて眼鏡をかけていて、古着がよく似合う。本当に古着かはわからないけど。彼は鞄から分厚い本を取り出してテーブルに置き、ブレンドコーヒーを注文した。店員は迷わずに灰皿を持ってきた。常連客なのだろうか。 
他の女性客にも声をかけられていた。近くの大学生か。この喫茶店に来る客は近所に大学があるから、そこの学生

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