見出し画像

抱擁のかけら (2009) LOS ABRAZOS ROTOS/BROKEN EMBRACES 監督 ペドロ・アルモドバル

アルモドバル監督の映画を見る時は、どんな色彩、部屋の内装、風景、劇中劇を見せてくれるのだろう? という興味で観ているような気がします。

レナとマテオの逃避行先のファマラのホテルの部屋。鮮やかで明るいのにかげりを感じさせるブルーの壁にオレンジの花柄のソファ。海岸で、男の赤のシャツの背中をそっと抱きしめる女の深緑色のニット。補色がいつも効果的に使われています。

登場人物たちの思いも、色のように鮮やかにちりばめられているようです。レナとマテオの情熱、ハリーの虚無、エルネストの執着と嫉妬。エルネストJr.の屈折、ジュディットの悲しく普遍な思い。そしてディエゴの不安。それぞれの感情がお互いの感情を際立たせるように感じます。

レナ(ペネロペ)は女優という役柄もあって、オードリー風やマリリン風のヘアメイクもみせてくれるけど、昔のイタリア映画が印象的に使われたり、過去には「昼顔」のドヌーブ演じるセヴリーヌの名前を源氏名に使っていたりと、昔の映画へのオマージュみたいなものもたくさんみてとれました。

本筋にあまり関係なさそうなんだけど、ディエゴがヴァンパイアの話を考えて生き生きと話すシーンが好きです。

サスペンス風味もあったりするけれど実際のところ、案外ストーリーはシンプル。アルモドバル監督の映画ではいつも、何か割り切れなさ、気持ち悪さ、不快さみたいな感情を、そっと押し付けられる感じ、そしてそれが好きか嫌いか自分で決めかねる感じ、という鑑賞後感があるんですが、今回はそれが少ないように感じました。

絶望。そして再生の予感。抱擁のかけらは、つなぎあわされかけてるのかもしれません。

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?