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戦コンGD爆死事件(CASE5)

 ダニング=クルーガー効果とは能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアスのことである。

 就活開始半年を迎えた私は数々のGD(グループディスカッション)を経たことで、自分がGD(というよりGD内で与えられるケーススタディ)が得意な人間であると完全に勘違いしていた。何なら自分のことをスーパーロジカルコンサル向いてるマンだと思い込んでいた。典型的なダニング=クルーガー効果の例である。そこで起きたのがこの「戦コンGD爆死事件」だ。

 戦コン(戦略コンサルタント)とは主に企業の戦略策定・実行、新商品開発、M&A戦略などの課題を解決する課題解決のスペシャリストである。就職・転職難易度は数あるコンサルタント職の中でも最難関と言われており、論理的思考力をはじめ様々な能力が求められる。

 勘違いボーイは何を思ったか、その中でも最難関のひとつである某D社に行きたいと思ってしまった。同社は新卒採用人数が毎年3〜5人という圧倒的狭き門である。奇跡的にES、能力検査を突破しいよいよ1次選考であるGDを迎えてしまった。

 正直始まる前はワクワクと怖さが半々くらいであった。なんせはじめての戦コンとの対戦である。グループは4人の学生と1人の社員の5人だった。ヤバめの雰囲気が訪れたのは冒頭の自己紹介である。
「東京大学大学院、〇〇です」
「一橋大学〇〇学部、〇〇です」
「東北大学大学院、〇〇です」
 いや早慶すらいないんかい。でも学校名で判断するのは違う、結局は実力よ、と思いながら自分の自己紹介(私文)を絞り出した。

 さて、ついにワークである。ワークのお題は「漫画喫茶の市場規模推定とその市場規模拡大のための施策立案」である。発表はない。最初に3〜4分個人でフェルミ推定をし、その後話し合う形でワークが始まった。私は小さな頭をフル回転させ、まず日本国内の漫画喫茶の店舗数を算出しようとした。町村を無視し、市にフォーカスする。約700の市を主要な市とその他に分け、感覚ベースで主要な市に10店舗、その他の市には2店舗あると仮定すると大体2000店舗ほどになった。我ながらガバガバだがまあここからだ、と思った瞬間3分経過し、議論を始めるように促された。

 正直なところ議論の内容は詳細には覚えていないうえに思い出したくもない。2人既に市場規模を推定し終わっており、1人は計算中であったことは覚えている。立式すらできていないのは私1人だけであった。数字はとりあえず誰かが算出した12億円ほどと仮定し、ターゲット選定とボトルネック特定に移ることになった。

 いい感じに進んでいるように見えるが、私は自分の算出方法のガバガバさを露呈した以外、特筆すべき発言をしていない。いわゆる「GD地蔵」になってしまったのである。スピード感が早すぎてシンプルに議論についていけず、相槌を打つことしかできなかったのだ。この時私は生まれて初めて本気でZOOMを途中退出しようか迷っていた。

 ひとつ気づいたことだが、人間あまりにも怖いと冷や汗が出たり体温が上がったりすることすらない。というよりそれに気づく余裕がないのかもしれない。少なくとも前回爆死したGD(後日書くかも)の発表の時は体温の上昇を感じる余裕があった。

 議論は後半になり、やっと少しずつ意見を出せるようになった。コンサルにおいてアイディアベースの意見は特に評価されないため、頑張ってロジカルに意見を導き出す。いい感じに打ち手の評価まで終わり、ワークは30分で終了した。正直私にとっては2倍くらいの長さに感じた。

 終わりかと見せかけてまさかの1人ずつ社員から質問される地獄の時間が待っていた。最初に質問されたのは私である。
「たくさんアイディアを出されていたと思うんですが、ターゲットに関してはヘビーユーザーとライトユーザー、新規顧客ではどの層を狙うのが良いと考えましたか?」
「ライトユーザーと新規顧客です。ヘビーユーザーはあまりにも少なく、、、、、」
「どのような計算をされましたか?」
「経験ベースになってしまいますが私の周りの友人を考えたときに大体5人に1人が漫画喫茶を利用しているため、若者の漫画喫茶利用率は、、、」
「わかりました、ありがとうございます。」

 やっと終わった、まあ落ちたな、などと思っていると、他の3人への質問が始まった。ところが質問の難易度が明らかに私に対するそれと違うのである。しかも皆スラスラと自分の考えや計算式を述べていくのだ。
「回転率はどのように設定しましたか?」
「はい、昼間に関しては0.4、夜に関しては0.7で計算しました。」
「ではこれらのどの部分を改善すれば収益向上が見込めますか」
「まず客単価だと考えています。というのも、、、」
 明らかに私1人だけ浮いていた。どう考えても私はそこにいていい人間ではなかった。質問をしてくれただけでも感謝である。質問タイムが終わり、社員から3日以内に合否の連絡があることを告げられ、長い1次選考が幕を閉じた。

 本当に怖かった。どのくらい怖かったかというと、初めてタワー・オブ・テラーに乗る前の2倍ほどである。今までの人生で1番怖かったといっても全く過言ではない。猫がライオンばかりの檻に入れられたらこういう気分になるのだろうなと感じた。

 しかし後悔はしていない。就職活動の初期(?)のうちに打ちのめされておくことで全ての失敗が「まああれよりはマシだな」と思えるようになるだろう。現に今なら某M商事のGDでも突破できそうな気さえする(怖くないだけ)。

 私はこのGDを通して、世界の広さを感じた(ガクチカ風)。自分がいるコミュニティにあれほど頭が切れる人間は1人すら思い当たらない。しかも彼らより上も紛れもなく存在する。すごいなあと思うと同時に、いつかはあんな能力のある人と肩を並べて仕事をしてみたいという野望が生まれた。ダニング=クルーガー効果が本当であれば、時間はかかっても長い経験とともに本物の自信は少しずつ着いていくはずだ。地道に人生頑張ろう。

追伸 もちろん祈られてました。

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