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映画評

 いずれもDVD。そして基本、ズケズケと辛口でやっているはずが、「ガリー・ボーイ」は甘めにみて☆5にしたかという感じで、どれも5になってしまった――。四本借りて、四本とも大当たりなのは、私の選定眼とかいうことではなく、本当に今、映画はルネサンスなのだということだろう。いずれもゲオで借りられるよ。

 「シシリアン・ゴースト・ストーリー」(☆☆☆☆☆)
 すごい監督が現れた……映像と、なによりもフェティッシュなまでの音響へのこだわりによって、ストーリーなどつくづくどうだってよくなる。PTAがグリーンウッドを起用して「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」でやりたかったのはこういうことだったのだ。音楽によって情動を揺さぶり、それがセリフなどよりも雄弁に物語に起伏を与えてしまう、しかもトラックはどれもがハウスミュージック界隈のスノッブたちが歓喜して唸る高い水準のものであって、まずこうしたトラックを選ぶことのできる人材というのだけでも、滅多にいるものではない。単純な筋立てであるのだが、その単純な筋のものを撮って、ほかでは絶対に観ることのできない表現を作り出してしまっている。 

 「まぼろしの市街戦」(☆☆☆☆☆)
 おおデジタル化されているではないか、と借りたもの。最近見返したばかりの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(ドグマなのでこだわりがあってやっているわけですが)よりも画質がいい(笑)。映画好きの人に云っても釈迦に説法になるだけであろう古典であって、見返す価値がありました。今同じようなものを撮るとPC的にどうなんだ、とかいう下らないことになること必定の破天荒さ。反戦を前面に出してしまった映画のなかでは一番かな。

 「僕たちは希望という名の電車に乗った」(☆☆☆☆☆)
 アルバトロス・フィルムというZ級映画――B級というのを通り越しているパーティとかで観る用の超低予算映画というのが外国にはあって、そんなのばっかり買っている配給会社があるのである。そこが昔「アメリ」の権利の際に挙手すると、ほかの会社はえっアルバトロスが買うような映画か、というのでサッと手を下げる。結果としてごく安値で権利を買った「アメリ」が大ヒットし、それ以降か、アルバトロスは単館系の映画の良作も販売し始めた。……というようなコンテクストはどうだっていいけれども(笑)、この映画のコンテクスト、時代的背景もかなり複雑で、少しだけでも予習しておいた方がいいかも知れない。映画の作りとしてはペラペラのOSTが流れたりするのだけれども、史実が面白過ぎて、どんどん話が良くなっていく。例えばだけれども、似たような作りの映画で「それでも夜が明ける」とかがあるが(社会派ドラマって大概そうですな。トム・ハンクスが出てきたりとか)、この映画はシナリオの展開と事実の重みによって安っぽさがかき消えてしまう。類例を引き離している、と云ってもいいだろう。「朗読者」(邦題が最悪だったのだけれどもいい映画化だった)といい「グッバイ・レーニン!」(大傑作)といい、ドイツはこういう社会派ドラマにいいものが沢山あるが、それはそれで悲しいというか、痛ましい。

 「ガリー・ボーイ」(☆☆☆☆☆)
 最近「ボヘミアン・ラプソディ」「ロケットマン」などなど、ミュージシャンの伝記映画が多い。類例や、ミュージカル映画などでもヒット作が多く出ているからというのも大きくあるのだろうが、「音楽」を主題にすることで普遍的、あるいはネット時代における国際的なアクチュアリティが増してきているのだ、ととることもできるだろう。で、この作は「ボヘミアン・ラプソディ」「ロケットマン」よりも映画として頭ひとつ抜けているところがあって、筋立てはありきたり、きわめて既視感が強いといっていいのだけれども、インドの複雑な事情の書き込みがあるがゆえに、味わいが深く、説得力がある。やや説明不足というか、どんなもの食べているのか、とか、どれくらい貧乏だったのか、といったところが撮れていない気がしたのだけれども、やはりどうにも、強い。インドに生まれたかった、と無責任にも思い成してしまうほど。



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