あかいしん

小説練、始めました。

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最近の記事

プロのタイムスリップ

祖父が亡くなってから少し経ったある日の夜、僕は祖父の部屋にいた。祖父へ最後の義理を果たすために。 祖父は寡黙で真面目な人だったが、晩年は何処か違ったように思う。呼びつけられ、襟を正して病室に入って酒を勧められるとは考えもしなかったし、財産としてガラクタにしか見えない石を押し付けられるとは。 もう時間だろうかと思い酒に手をかけた瞬間、視界が暗転。体は拘束され、口には布が詰め込まれた。抵抗を考える頃には全てが終わった後だった。 そして、展開に思考が追いつかないままに頭に巻か

    • 半笑いの失恋

      『何でいつもヘラヘラ笑ってるの?』 それが彼の処世術だった。 大抵の場を乗り切ることが出来た。しかし多くの人間は、真面目に取り合う気がないのだと理解し 、言外の断絶を選んだ。 「俺は……いつだって、どうして良いかわからなかっただけなんだ……。」 「ヘラヘラしていれば期待に応えられているような……そんな気がした。本当は……今ですらただ小心者なだけなんだ……。」 彼は薄ら笑いを浮かべていた。 当初、彼女は彼の態度が許容できなかった。何もかも、自分すらどうでも良いと言ってい

      • 動かないものバトル

        世の中には様々なトーナメントがある。 今まさに私の前に催されているものは、その名も「リペアトーナメント」。お題に対して、全世界から集まった職人が己の技術の枠を集め、元のあるべき姿を取り戻させようとする戦いだ。 思い返せば、準決勝では非常に難易度の高いお題で苦戦させられた。生命活動の再開、アイデンティティの再構築、同一データを持った別個体ではないことの証明。これら全てを5分という短時間で行うというのは、私といえど簡単な事ではなかった。 対戦相手は、該当個体が喪失する直前の

        • 失恋自己紹介

          初めまして、私は三好圭介と言います。 圭ちゃんと呼んでくれたら嬉しいです。 今日は窓の外に見える桜が綺麗ですね! 話が唐突すぎるって?まぁ桜に免じて聞いてくださいよ。 桜の散る様は美しいですね。人々の思い何て知らずに、短く儚げに散っていくその様は、私の心を締め付けます。しかし、こんなことは色んな偉い人が何遍も宣ってきたことですが、儚く散ったからこそ次の春はまた素晴らしいものになる。だから僕は桜が大好きです。 この部屋に入ってきた時、散花を眺める貴方の姿はまさしく桜でし

          全力で推したいリストラ

          「俺がリストラ……ですか?」 「あぁ。我が社も前回あんな事があったから規模を縮小したくてね。非常に残念だが……。」 勤続10年、人一倍有能とは言えないにせよそれなりに頑張ってきたじゃないか! 皆とは仲良くやってきたつもりだったが、それは結局の所俺の思い込みだったということか……。惨めだ。確かに最近妙に皆そっけないとは思ったが。 茫然自失のままに帰路につく途中、携帯がけたたましく音を立て始めた。この着信音は……。 「神獣が出現したぞ。出られるな?」 神は心の暇すら与え

          全力で推したいリストラ

          涙バンク

          大きく心が揺さぶられる時に流す涙ほど素晴らしいものは無い。 勝てる筈がないと評された強敵を、主人公が艱難辛苦の果てに打ち破った瞬間を見るカタルシスといったら。 しかし、同じ展開がもしまた起きても私や諸兄の涙腺は緩まないだろう。感動できる量は有限なのだ。 だから私はこの涙バンクが大好きだ。 涙が流れそうになった時、それが取るに足らない感傷的な事であれば、そこで流す涙は、きっとミネラルウォーターよりもチープだろう。 だから大切な場面のために取っておく。 加えて、涙バン

          記憶の消しゴム

          別れた元彼の事が忘れられないなんて最低だ。 目玉が飛び出るくらい点数が低かったテストの点なんてそれ自体はただの数字で無意味だ。 友達を誘ったLINEの返事が来るかを気にしてる時間は馬鹿だ。ちょっと楽しいのは否定しないけど。 記憶の消しゴムを手に入れてからはクヨクヨする事が殆どなくなった。消したい記憶を強く思い浮かべながら強く擦るだけ。字を消し終える頃には、どんな気持ちだったのかすら忘れてしまっている。 夕暮れの教室に一人。放課後。頬には涙の跡。 ここにいる理由すら思い

          記憶の消しゴム