見出し画像

【ショートショート】「太陽からの請求書」

地球温暖化が問題視されるようになったのは1970年代からで、主な原因は二酸化炭素などの温室効果ガスの増加だと言われてきた。しかし、それは表向きの理由にすぎなかった。

数十年前、地球のすべての政府に太陽から驚くべき通知が届いた。封筒には「極秘」と大きく書かれており、開封した者たちを恐怖で震え上がらせた。「地球の住民へ。私はあなたたちに光熱費を請求します」請求書には、地球に対するエネルギー供給の対価として支払いを求める詳細と支払い方法が記されていた。

当初、科学者たちや政治家たちはいたずらだと一笑に付し無視したが、数日後、天文学者によって、太陽の表面に奇妙な現象が現れているのが発見された。そこには巨大な文字が焼き付けられていた。「支払期限は近い」地球の言語を理解しているかのように、さまざまな言語で同様のメッセージが見られた。

この事実は世界中の秘密会議で共有され、各国政府はパニックに陥った。太陽の要求を無視することは不可能だった。なぜなら、既に地球温暖化の兆候が見え始めており、太陽の説明通りに地球の温度は上がっていたからだ。

議論の末、地球のエネルギー資源を太陽に供給することが決定された。この真実は一般市民には知らされず、各国政府は秘密裏に行動を始めた。

実際に支払いが始まったのは数カ月後のことだった。まず、太陽に支払うための装置、ソーラーファネルを作る必要があったからだ。この装置は世界中で製造され、特に発展途上国には先進国からの援助として提供された。

太陽が要求してきたのは地球のエネルギー資源だった。石油、石炭、ガスなどのエネルギー資源がソーラーファネルを通じて太陽に支払われた。この結果、地球の燃料資源が急速に減少し混乱が生じた。

各国政府は温暖化の原因が人類の活動によるものだと説明したが、真実はそれとは異なっていた。太陽へのエネルギー供給が過剰になったことで、地球の気候システムが乱れたのだ。この事実を知るのはごく一部の高官たちだけであり、一般市民はその真実を知らされることはなかった。

だが、供給できるエネルギー資源は限られていた。そして、ついに各国のエネルギー資源が次々と枯渇し始めた。その結果、太陽への定期的なエネルギー支払いが滞る事態となった。

ある日、地球の各政府の指導者たちが集まる緊急会議室に最新の請求書が届いた。封筒を開けると、そこには厳しい警告が記されていた。

「次の支払いが遅れた場合、地球は永遠に暗闇に包まれる」

リーダーたちは、その一文を見て凍りついた。冷や汗が流れ、重苦しい沈黙が会議室を支配した。

影響は即座に現れた。気温が急激に下がり、真昼でも薄暗くなり、植物は枯れ果て、動物たちは生き延びるために必死に食料を探し回った。街中では電力不足が深刻化し、公共の照明は消え、家庭ではろうそくの明かりが頼りとなった。

もはや一般市民に隠しておくのは無理であった。事実だけがありのまま世界中の人々に知らされた。

国際対策会議が開かれた。巨大なホールに集まった各国のリーダーたちは深刻な表情で議論を交わしていた。その場の緊張感は、張り詰めた弦のようにピーンと響いていた。

「もう地球のエネルギー資源を供給するのは限界です」席から立ち上がった科学者の一人が苦渋の表情で口を開いた。「太陽の要求を満たす別の方法を見つけなければなりません」

「しかし、それは一体何だというのか?」別の科学者が叫ぶように問いかけた。その声には、絶望と焦燥がにじんでいた。

エネルギー資源に代わるものが見つからず、地球は追い詰められていった。沈黙が会場を包み込む中、ある先進国のリーダーが重々しく立ち上がった。目には冷静さと決意が宿っていた。

「われわれ人類が持つものを提供するしかない」彼の声は低く、しかし力強かった。「膨大な知識と情報を太陽にささげよう。もし太陽が知識や文化を吸収できる存在であれば、それが新たなエネルギー源となるかもしれない」

この斬新なアイデアは、瞬く間に会場中の科学者や政府高官たちの間で議論の的となった。そして、賛同の声が次々と上がり、急きょ、地球全てのデジタル情報を太陽に送信する計画が立案された。

ソーラーファネルに、地球上のあらゆるデジタル情報が収集された。その作業は昼夜を問わず行われ、全人類がその成り行きを見守った。

ついに決行の日がやってきた。全世界が固唾を飲んで見守る中、支払いが開始された。人類の歴史、科学、芸術、文化、全ての知識が、一斉に太陽に向けて送られた。その瞬間、全世界は一つの希望に心を一つにしていた。

すると、予期せぬ現象が発生した。太陽の表面が突然、深い静寂に包まれた。光の粒子が瞬時に消え去り、宇宙の闇が広がるような感覚が漂った。数時間の沈黙の後、太陽は再び活動を再開し、これまで以上にまばゆい輝きを放ち始めた。地球上の人々はその光景に息をのんだ。太陽が知識をエネルギーとして受け入れたのだと感じられた。

「太陽が変わった」ある科学者が興奮とともに叫んだ。その声は歓喜と驚愕が入り混じっていた。

しかし、その喜びもつかの間、問題は再び姿を現した。太陽の輝きが持続する中、次第にその要求はエスカレートしていった。太陽はすぐに知識を消費し尽くし、さらに高い代償を求め始めた。その要求は冷酷なものであった。

「私のエネルギーを増やすために、私は人類の生命エネルギーを要求する」太陽から届いた最新のメッセージは、その内容が脅迫じみていた。「さもなければ、地球は永遠に闇に閉ざされる」

このメッセージが伝えられると、地球上のすべての生命が凍りついた。各国の指導者たちは顔面蒼白になり、混乱と絶望が広がった。まるで地球全体が息をのんだかのような沈黙が広がる中、人々は目の前に迫った恐怖に直面していた。

「どうするんだ?」あるリーダーがうめくようにつぶやいた。その声には深い疲労と絶望がこもっていた。「私たちには、もう選択肢がないのか」

そして最終的な決断が下される時が近づいていた。人類はその命を太陽にささげる以外に道がないのか、今、全世界がその運命を迎えようとしていた。

ついに、その時が来た。太陽は全ての人類の命を支払いの代価として吸収した。絶叫とともに、地球上の生命は一瞬にして消え去り、静寂と虚無が広がった。都市は廃虚となり、緑豊かな大地も無機質な荒野へと変わった。人類の痕跡は、ただ静かな風の中でささやく亡霊のように残った。

一方で、太陽はその束縛から完全に解放された。人類から得た膨大な生命エネルギーが太陽を新たな存在へと変貌させた。重力の束縛を振り払い、自由に宇宙を旅する能力を得た太陽は、まばゆい光を放ちながら、無数の星々の間を移動し始めた。

「自由だ、私はついに自由だ。自由なのだ」太陽は輝きを増しながら、自らの進化を喜び、宇宙の広がりに興奮を感じていた。

宇宙の旅の中で、太陽は未知の生命体と遭遇することとなった。新たな星系に到達すると、その星々の周囲に広がる生命の兆候に目を奪われた。太陽はその新しい住民たちに対して、光熱費の請求を思い描いた。

「彼らは、どう反応するだろうか」太陽は考えた。

新たな生命体は太陽の要求にどう対応するのか。彼らもまた、自らの存在を賭けた決断を迫られることになるのだろうか。

今、太陽がその支配と恐怖から解放されたその代償は、人類の絶滅という甚大なものであった。冷たい宇宙の闇の中で、人類の記憶とその結末だけが、静かに語り継がれることとなった。その結末は、永遠に宇宙の歴史に刻まれるのであった。

(あかみね)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?