日記0419あるいはスパイスふたたび
「また来るオモッテタ」
インド人は粉のニオイを嗅いでから、茶色い袋へザラザラとスパイスを入れた。
「香りが、足りなくなって……」
「シゲキ、が足りなくなったンデしょ」
「……そうかもしれません」
気怠い身体に、鈍った五感にスパイス。毛穴が全て開き、鼻腔となり、あらゆるニオイに敏感になる。
「忘れられませんよ、本当に。一度してしまったら……」
「ダカラね、また来るオモテタ」
「本当は頼りたくなかったんです、幸せになれないし、辛さから逃げるべきでもないって。もし受刑者が一日中寝ていたら嫌でしょ、それと同じです」
私はスパイスを早々に使い切り、追加分を注文しようとした。
「直接はダメ、ネットを介シテ」
「目の前にいるのに……、ですか?」
「在庫管理に必要ナンダ」
言われるがまま、ネットで予約をし、目の前にいるインド人とメールや電話を介して日時を決める。
「くれよ、オレにも、なぁ、スパイスをくれよ、なぁ、おい」
床に手足の切り取られた男が転がっている。
「スパイス、やりすぎると、こうなる。良い見本ネ。スパイスワームって呼ばれてるヨ」
スパイスは使いすぎると末端から腐り落ちる。床に転がるスパイスワームは、もともと競歩の選手だった。
「嗅がせてくれよなぁ、なぁ……」
むかし、スパイスは同性愛者たちのオモチャの一つだったらしい。肛門の便のニオイをごまかすため、あるいは、媚薬や興奮剤の代わり。
「あげちゃダメだよ、ハハハ」
インド人が笑う。私の指先は溶けかけている。
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