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【ラジオそして読書】落語、三つ葉

3月30日、年度最後の土曜日にNHKラジオで、「一花二葉 はなしをしよう」が放送された。その名の通り落語家の春風亭一花さんと桂二葉さんがテーマに沿ってただ話す番組。

当初は28日木曜夜の放送予定だったので、「『働く大人たちの日常痛快コントショー 東京03の好きにさせるかッ!』を楽しみにラジオをつけてくださった皆さん、ごめんなさい!」と番組が始まり、本来は東京03の番組の時間帯らしいと分かる。その後も何回かこの番組名を丁寧にフルネームで言っていたので面白かった。

第1回のこの日のテーマは「三つ葉」だった。落語家の2人の他に、"天然知能"のジローが出てきてところどころ豆知識を披露してくれた。三つ葉が入っている代表的なものとして、雑煮や恵方巻について、クイズを交えながら番組が進んでいった。落語のときは芸でその空間に世界観を作るというか、ある種張り詰めた空気を作る彼女たちだが、そのような緊張感とは無縁の和やかな雰囲気の会話をしていて、それだけで楽しい。

番組では、落語家の名前としての「三つ葉」も取り上げられた。現実にはこの名前の落語家はいないのだが、フィクションに出てくる。佐藤多佳子の小説でラジオドラマ化されたこともある『しゃべれども しゃべれども』と、2022年のドラマ「あなたのブツが、ここに」である。後者には三つ葉役として二葉さんが出演していて、その音声が公開された。そのドラマ出演については一花さんも知らなかったらしく、二葉さんは恥ずかしくてあまり宣伝しなかったのだと言っていた。高座であんなに堂々と話す人にも恥ずかしいとかあるのかと驚いた。そして、人間と会話しなければならないからドラマ出演は緊張したという。落語家は一人で複数の役をやるのだから、むしろ相手がいる会話のほうが難しいとのことで、一人で物語世界を構築する芸を磨いているすごさを改めて思った。

前者の『しゃべれども しゃべれども』も気になったので読んでみた。主人公の三つ葉は26歳で二ツ目の落語家。月島に師匠がいて、吉祥寺でお茶の師匠をやっているばあさんと二人暮らしをしている。ひょんなことから、話すことが苦手な、年齢も性別もばらばらの4人が三つ葉のもとに通い、「まんじゅうこわい」を習うことになるという話だ。主人公は短気で、口も行動も早いタイプだが、集まってくる4人はそれぞれに事情を抱えている。思ったことがうまく口に出せない気持ちは私もすごくよく分かるので、そのような人間の不器用さに寄り添うこの物語には心の奥を温めてもらっているような気持ちになれた。26歳で芸に真剣に向き合って悩み、一癖ある人々に出会ううちコミュニケーションの難しさにも直面して悩み、行動を起こしてきた主人公のこともすごいと思うし、ちょっと古風な彼のことがすっかり好きになった。前から存在は知っていた作品だが、ラジオきっかけで読むことができてよかったと思う。

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