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『リバー、流れないでよ』を観て

京都の劇団であるヨーロッパ企画の映画第二弾となるSFコメディ、いわゆる"時間モノ"である。舞台は京都の貴船にある旅館だ。

主人公は旅館の仲居で、その日も普段通りに給仕をしていた。食事を終えたお客さんの食器を片付けたら休憩、というところで事は起こる。

貴船といえば川床が有名だ。旅館のすぐ横が川で、夏はその上で食事できるらしい。この映画は冬の話なので川床は敷いておらず、川はただ清冽に流れるのみ。主人公はしばしその流れを見つめ物思いに耽ったあと、番頭と合流して雑談しながら食器を片付ける。と、気づけばまた川の前にいる。変だなと思いながら再び番頭と合流し、また食器を片付けるが、デジャヴを感じているのは番頭も同じだと判明する。と、また川の前に戻り、時間が戻っていると気づき…。という話だ。

この物語は、時間が巻き戻ることが延々と繰り返される状況に陥ったときの人間の反応や、非日常の中で人々の内面が引き出される様子が描かれているのがおもしろい。パニックになる人や、本当は言うつもりのなかった心情を吐露する人など、リアルだなと思う。ループの経験がないからリアルとか分からないけど。もし自分がループに嵌ったらこの登場人物みたいになるかも、とか現実的に考えて想像してしまうくらいにはリアル感を伴って描かれている。

旅館内を移動する主人公にカメラがついていく形で物語が進んでいくため、ループの始点は毎回川の前に戻る。つまりこの映画では2分おきに同じ場所にいる同じ人間を見せられることになるのだが、意外にも全く飽きることなく見れる。2分って普段意識することがないから、意外とたくさん会話できるんだなとか、やっぱり2分って短いなとか色々発見がある。それに、主人公は記憶を引きずっているため、時間が戻る前の状況から生じる感情が表情に表れる。その表情が毎回異なるのでおもしろく見ることができる。撮影は予期せぬ大寒波によって難航したらしいが、そこで雪を演出に取り入れると決めたおかげで、ふと雪のある風景に変わったりする瞬間にその美しさにハッとさせられる。

大人たちがわちゃわちゃしている姿もなんとも滑稽だし、その人の置かれた状況によってループに気づくタイミングが違ったりするのもおもしろい。

テンポが良くてとにかく笑えて、ちょっと青春で、雪の日に入る温泉みたいにじーんとなる素敵映画。

ヨーロッパ企画とくるりという、私の中で「京都で学生のまま大人になってしまった的おじさん集団」というカテゴリ(ほめている)に入る人たちがコラボしているのもアツい。


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