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アとウ

カとイの二文字ですべて表現する人のことを書いたけれど

言葉を持たない方には
短い少ない音で
多くは、母音と僅かな子音と
豊かなジェスチャーや、トーンや身体の表情で
すべてを伝えんとする方は少なくない

それだけで伝えようとする
なんなら なんでわかんないのくらいの勢いで
迫る熱量に圧倒されるけれど

毎朝洗濯物を干していると
遠くから風に乗って
アウアウアウアウアウアウアウアウウアウアウと
顎外れんじゃないかしらって心配になるくらいに
下顎をカクカクさせて東から西へ
おそらくバス停に向かうヌシの声が聞こえてくる

ドップラー効果並みに
近づくにつれて声が高く大きく
マンションを通り過ぎると小さく低くなっていくのを
洗濯物を干しながら
今日も元気に行ってこようぜって
彼の背中を押すふりして自分の背中も押している笑

実は
その方の利用する施設が、
私も以前勤務していた施設と
区の施設に店子として同居していたので
何度も袖触れ合う程度のご縁があって

街ではオペラ歌手並みに風に声を載せている彼だけど
作業所に到着すると
小さな声でおはようございますと
言葉でコミニケーションをシャイに周囲と交わして
特技はレインマン並みに生年月日から曜日を瞬時に割り出すことで
いっしょにカジノいかない?って
心の中で思う笑

阿吽は宇宙の始まりと終わりの音みたいだけど
彼にとってはアとウは一日の始まりの音
山のない街でマンションにコダマさせてロックだ

最近美容室のお兄さんと、
アとウで始まる朝の恒例の儀式のことを話していたら、
お兄さんも地元の人なので
その彼のことを知っており

地元のサッカー少年界隈では
ラララ小父さんと呼んで有名なのだと話してくれた。

試合の時にラララ小父さんが通りかかると、
その試合に勝てるというジンクス、ラッキーアイテムで、
ビリケンさんのような存在で、
試合中にアウアウアウアウアウアウアウアウと声がすると
よっしゃあ、今日の試合は勝ったぜとみんなの士気が上がったそうな

そして代々サッカー少年の間で
そのジンクスは語り継がれて
街も人もユーモラスにその存在を景色に受け入れていると聞いて

ウルサイナアと言ってしまえばそれまでの
身も蓋もないような声に
そんな物語を思った少年らの感性に
四葉のクローバーを見つけたような気分になって

作業所が休みなのでルートを変えるのか
ラララ小父さんの通らない土曜日の朝に
ベランダは満艦飾 洗濯物を干している




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