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パティ・スミスと三つ編み

改めて見上げると巨大な病院だったことに圧倒される。傷病手当や入院保険の診断書作成依頼に病院窓口を訪れる。

裏口入院だったので、正面玄関からタノモーと入るのも緊張する。

ピカピカキラキラのエントランスホール、コンビニやコーヒーショップ、free Wi-Fiも完備の大学付属病院。

でもここは建物があるだけじゃない。

何百人もの医療者、様々な職種のスタッフが小さな街のように機能して、24時間365日雨が降ろうが槍が降ろうが、何百人もの患者さんの命を預かり、命をこの世に引き留めるべく戦ってくれているところだ。

今日の私も手を合わせて、無事を祈るしかできない。

入院中、大部屋の同室に、グレイヘアを三つ編みに結んだパティスミスを思わせるご婦人がおられた。おひとりで小さなバックを持参し入院され、身の回りのご自分のことも手際良く済ませて、看護士とのコミニケーションも理路整然、サバサバと冷静で、これまで自立して生きてこられた方という印象を強く受けた(勝手に)

脳の手術受けてICUから病棟に戻られると、別人のように憔悴しきっておられた。声も足取りも、全身に纏うオーラというか生気のようなものも、すっかり奪われて小さく肩で息をしておられる。

コロナでなければ、そんな時近くに誰か寄りそって、手を添えてくれたら、声をかけてくれたら。今は誰もがひとり病室でベッドの上孤独に病と向き合うしかない。

健気に正気を保って、赤の他人の医療者と同室の患者に囲まれて日中を過ごした方も、夜には更なる孤独にひとり襲われる。それは同室の誰もが同じだ。だから、分かる。

ータァースゥケテエエエエエ!!

夜を引き裂いて病室に叫び声が響き、何事かと飛びおきる。

寝言だ。

パティスミスの老婦人のベッドから、呻くような声が聞こえる。

神もいない。仏はいたけど人間だ。それでも、わたしにできるのは、今夜少しでも彼女に眠りが訪れるのを祈るだけ。

夜を支配するものの気配を強く感じてしまってからは、安眠を貪ることは出来なくなっしまった。浅い眠りに目覚め、子供らの寝息や気配の温もりに、また目を瞑る。


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