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めざせ!マイベスト! -昭和時代のカセットテープ活用術②

 昭和57(1982)年10月。全世界の音楽リスナーにとって、革命的な出来事が起こります。音楽用CDの発売です。
 「レコードよりも音質がよく、ノイズが少ない新しいメディア」との触れ込みで販売が開始されたCDは、CD登場と同時期に発売されたCDプレイヤーが各メーカー軒並み20万円前後と非常に高価だったこともあり、すぐにレコードに取って代わることはありませんでした。しかし、廉価版のプレイヤーが登場し始めると徐々にCDソフトの販売も伸び、販売枚数では昭和61(1986)年に、生産枚数でも昭和62(1987)年頃にCDがレコードを上回り、音楽を聞くメディアはCDが主流になりました。

 「ペニーレーン」がオープンして何年か経ったら、CDに変わったんよ。とにかく、そこからすごかったんよね。飢えとったんよね、音楽に。だから、カセットテープも、山ほど積んどっても、飛ぶように売れていくの。CDになると、簡単に録れるやろ。

 このように、CDへの移行に関連して売り上げが伸びたのが、カセットテープ。CDレンタル店が増えてきたこともあり「借りたCDを私的に聞くためにダビングする」という需要の高まりのために、カセットが飛ぶように売れました。
 お店で借りたり、友達と貸し借りをして、好きな楽曲をカセットテープにダビングをするのはレコードの時代からの当たり前。若者たちは思い思いに、自分だけのカセットテープづくりに勤しみました。

 カセットテープもおしゃれなのを買って。こうやって擦ったら、文字が写るシールがあるじゃないですか。あれでラベルもきっちり作ったり。ごしごし擦って。よく使うアルファベットはなくなったり。Eとかね。雑誌の付録にもカセットのカバーとかがついたりして、ああ、これは爽やかな感じだから「TUBE」にいいな、とか思ったりして。基本的に、もったいなくて使えないんですよ。「今だけ、マクセルの3本入りテープを買うと、こんなかわいいカバーがついてくる」とかがあったりね。

 そして‘ダビング上級者’ともなると、他にも様々なダビングのコツがあったようです。

 曲順なんかにしても、タイトルの横に、何分何秒と書いてあるのがとても重要な情報だったりして。いかに裏表をロスなく使うか、ロスなく録音していくのか、っていう計算が速くなったりしてね。
 つめも折らないといけないし、大変だったですよね。ここ折っとかないと、上から録音できちゃう、という。でも、折ってあるやつにセロテープ貼って、もう一回使ったりね。

 曲の時間を吟味して、カセットテープの収録可能時間を余すことなく使って録音をすべし。使うテープにはもちろん、丹精込めて文字シートで収録曲を転写した、お気に入りのラベルを用意すべし。そうして完成した「これぞマイベスト!」という努力の結晶が不用意な操作で上書き録音されないよう、しっかりテープの爪を折っておくべし。
 現在の、たとえば音楽再生アプリで「再生リスト」を作るのとは比べ物にならないほどの労力をかけて完成する、魂のこもったカセットテープ。それは、当時の若者たちにって重要なコミュニケーションツールでもあったようです。

 だいたいみんな、レコードやCDを買うお小遣いはないから、カセットにダビングしたのをあげたりもらったり。なんだけど、「カセットをくれる」のは、脈ありのときだったり。異性でね。みんなに、「あ、もらったんだ、わたしには貸してくれただけだけど。もらったんだ~!」とか言われたり。甘酸っぱいですよね。カバーも、私らはただ‘マクセル’って書いてあるカバーに手書きで書いてあるやつだけど、こんなきれいに、これは、3枚いくら、とかっていうのをわざわざ買ったやつだな、とかね。

 このように「マイベストを、意を決してプレゼントする!」なんて甘酸っぱい記憶も語られるカセットテープはしかし、次世代の記録メディアとしてのMD(ミニディスク)の登場や、パソコンに音源を取り込んでデータ管理のみで音楽鑑賞を完結させることが主流となる中で、徐々に姿を消してきました。


※私的に楽しむ範囲を超えて、ダビングしたカセットなどのメディアを営利目的のためなどで他人に譲渡することは、著作権保護の観点から禁止されています。
 今回は、様々な取材を通じて、このようなカセットテープのやり取りを通じて互いの音楽的嗜好を披露し合うということが、とくに1980年代以降の若者の間で広く行われており、そこに著作権を侵害する意図や、著作権者に損害を与えようとする意図が皆無だった点、令和の今ではなかなか目にしない「カセットテープ」が若者の音楽鑑賞にとって極めて重要なツールであったことを当事者の言葉を交えて伝え残しておくことが、今回の展示の意図としてとても有意義だと判断し、このようなエピソードを紹介させていただきました。決して、著作権侵害を意図するようなダビング・複製行為の助長を意図するものではありません。

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