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今日もエアチェック! -昭和時代のカセットテープ活用術①

 現在ではストリーミングサービスやオンラインストアなどで音楽が聞き放題だったり、「この曲がほしい!」という曲単位で音楽を購入したりということが気軽に可能です。
 しかし、今回展示で主に取り上げる昭和時代はもちろん現在とは事情が異なり、好きな音楽を聞くには、レコードやCDを買うか、テレビ・ラジオ番組を見聞きするか、でした。
 レコードやCDは確かに、好みのアーティストにピンポイントでアプローチすることが可能です。しかし、LPレコードが主流になった1950年代からその座がCDに置き換わるまで、LPレコードの価格は一貫して2,500円前後。CDも、アルバムだと3,000円前後。流行に敏感でありたい中学生・高校生にとって、お小遣いからこの金額を捻出するのは一大事。毎月新曲を買う!ということが叶うのはごくわずかでした。
 しかも、レコードを聞こうと思うとプレイヤーやアンプやスピーカーなどのステレオセット、時代が下って「コンポーネント型」、プレイヤー・アンプ・スピーカーが一体となったいわゆる「コンポ」が発売されはしましたが、それら再生機器を吟味し揃えるのも一苦労。
 そこで多くの若者たちが頼りにしたのが、ラジオ放送をカセットに録音して楽しむ、いわゆる「エアチェック」です。

 ラジオ、聞いてましたよ。レコードだけじゃ、好きなのが手に入らないですから。高くて。だからFMを録音するしかなくて。ちょうど親戚が電気屋で、ステレオをその親戚のところで買ったから、外部アンテナをサービスしてくれて。FM専用のやつ。だから、よく録音してましたよ。当時たくさんあったんですよ、FM雑誌が。『FMレコパル』とか『FMファン』とか。週刊誌だったかな。それにFMの番組が書いてあるの。それをチェックして、カセットに録音して。ぼくはテクノどっぷりだったんだけど、それじゃあ友だちと話ができないから。高校の頃はけっこう、ハードロックが流行ってたし。デフレパードとか。NHKでレコードの新譜をまるごとかける番組があって。それは日本のも洋楽もかけるから、家に帰ってきたら部屋で音楽聞くばっかりだったね。

 昭和41(1966)年に創刊された『FM fan(2001年休刊)』、昭和49(1974)年に創刊された『FMレコパル(1995年廃刊)』など、レコード全盛期に多く出版されていたFM番組情報誌。1980年代中ごろにCDが普及し、それに合わせてCDレンタルショップなどが増えてくるにつれて「エアチェック」自体が下火になるに従い、休刊や、編集方針の転換などが断行されることとなりましたが、CDが主流となる1980年代中盤以前は専門性も様々に、各誌が「エアチェック」のお供として、ラジオと共にありました。

 録音の技は、当時の子どもたちはみんなそれぞれあったと思うんですよ。ラジオや、テレビの歌を録音するとか。
 当時はレコードから録音するか、ラジオから録音するかで、ラジオから録音する方が、音がいい、と言われていて。レコードってノイズが入るけど、ラジオは電波の入りがいいと音がいいから。だから、ラジオを録音してた友達はたくさんいましたね。
 FM愛媛の『HALF&HALF』とか、聞いてたかなあ。いまでもやってるかもしれないけど、夕方ね、五時くらいからやってて、おしゃべりなしで5、6曲かかるんですよね。
 私なんか、ラジオ雑誌を買うお金もないから、新聞のラジオ欄を見て、競馬新聞見るみたいに赤丸をつけて。今日はこれを絶対聞く、というね。昨日のあれ録れた?とかって学校で言ったり。

 さて、努力の「エアチェック」の末、手元のカセットテープに収まった好きな曲の数々。その曲を歌ってみたい、とくに洋楽の場合はその曲の歌詞がどういう意味なのか分かりたい、という思いも自然に湧いてきます。当時の少年少女たちが、その思いをどう叶えたかというと…

 一番困ったのが、当時はコピー機がないから。コンビニもないし。でも、歌詞を書き写したいの。洋楽は英語で。
 最初は、ちゃんと手書きで書き写してたんだけど、大変。で、親が「なにかいるものはないか」というから、「英文タイプライターを買ってくれ」と言ったことがありましたね。そしたらほんとに買ってくれて。自力でタイプライター打ちながら、自力で歌詞カードを作って。それが中学。中学入ったお祝いに買ってくれたんよ。

 ほんとはダメなんだけど、レコードのお店のおばちゃんに、「レコード開けて、歌詞写していっていいよ」とかって言ってもらえたり。お金がないからレコードは買えないけど、歌詞を写させてもらったり。ほんとはダメなんですけどね。

 異口同音に語られる、こっそり歌詞カードを写させてもらった経験。同じく異口同音に「ほんとはダメなんだけどね」と付言される辺り、当時の少年少女たちの良心の呵責が見て取れます。ほんとはダメなんだけど、昭和時代の思い出としてどうか、大目に見てあげてください。

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