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とある不良大学生の就活日記

 昨年の今頃、大学3年になった私のもとにもついに就活という名のビックウェーブが押し寄せてきた。同級生たちは口を開けば、インターンがどうだの、エントリーシート書くのが面倒くさいだの、リクルートスーツを新調しただの、聞いているこっちの耳が腐り溶けるほど不愉快な横文字を連発するようになった。元来、就活というものに対して恐ろしいまでの嫌悪感をもっている私からすれば、その不愉快な横文字を浴びせかけてくることはそれだけで、顔面に糞ぶっかけの刑を執行するに足るほどの悪行であった。

 従って、私はこの1年間所謂就活と呼ばれるものを殆ど何もしなかった。途中、就活をしているそぶりもなく、あまりにも怠惰な毎日を過ごしている息子を見かねた母親が、私の机の上に就職合同説明会のチラシを置いておくという、あまりにも間接的なやり方によって息子に就活生としての正しい道を歩ませようと画策したのだが、捻くれ者の穀潰し息子はそのチラシを精子を拭き取ったティッシュが溜められ、芳香剤(栗の花の香り)と成り果てたプラスチック製のゴミ箱に捨てることで母親と同様に間接的な方法によって反抗した。

 そういった調子で、同級生たちが次々に就活を終了させているなかで、私は内定を1つも得ることもなく現在にいたる。聞いた話によると今年度は新卒の就職状況がここ最近と比較して凄ぶる好調だそうで、ある調査によると現時点(6月頭)での内定獲得率は70%を超えているらしく、就活終了率も40%以上だそうだ。私の母親が就活をしている様子のない息子を見て焦りを感じるのも無理からぬ話である。こんな息子を持ってしまった両親は非常に気の毒である。とてもかわいそうだ。

 だから、先日の私の誕生日に近くのケーキ屋さんで、せめてものお詫びとして少し高級なケーキを2つ購入し、両親に献上した。父親は特になにも言わず食べていたが、母親はとても喜んだ。これまで数えきれないほどの不義理を働いてきた不良息子から高々800円程度のケーキを1つプレゼントされただけでここまで喜ぶ母の姿を見たら、今まで就活を真面目にしてこなかったことに対する罪悪感が急激に込み上げてきたので、急いで自室に駆け込みAVを観て自竿を落ち着かせることでなんとかおセンチになることを回避した。

 が、画面の向こう側に向けられた愛の雫を拭き取ったティッシュをゴミ箱に捨てたあとに思う。私は何と戦っているのかと。そして、モラトリアム人間の意地とプライドをかけたこの不毛な戦いはいつ終わるのだろうかと。



 


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