小説【アラーム】4
@放課後
掃除が終わり玄関に行くと靴箱に背を付け待つ弥生は「やっと来た…」と呟いた。
睦月は、バス通いの弥生に合わせ自転車を押しながら高校から近いコンビニへ向かった。
時季的な事から入口の棚に花火が並んでいた。
「適当に選んどいて」
と睦月は雑誌の並ぶコーナーへ行き立ち読みし始めた。数分が過ぎ突然Yシャツを引っ張られ振り向くと困った顔をした弥生と目が合った。
「ねぇセットとバラどっちがいい?」
「適当でいいよ」
「どっち~?」
「セット一つ買って、バラで面白そうなの何個か買えば?」
「うん。そうする」
言うとセットと跳びはねるのを何個かカゴに入れ、お菓子のコーナーにずれた。弥生は商品を見ながら「あっこれ懐かしくない?」と嬉しそうに言う。見ると幼い頃よく二人で行った駄菓子屋に置いてあった色の変わる飴がパック詰めで売れられていた。
「買ってやろうか」
「ホント?」
「あぁ。でも花火は割り勘だからな」
「え~。おごりじゃないの」
「何で俺がっ、誘ったのはお前だろ」
「分かってます~。割り勘ね」
精算し家に向かって自転車を押しながら歩いていると弥生は言う。
「ねぇ、うめバァ元気かな」
うめバァとは駄菓子屋のバーサンだ。顔がしわくちゃだからうめバァと呼ばれていたらしいが今考えれば容姿をけなしていたんだと睦月は罪悪感を感じていた。
「えっ聞いてないの?」
「何が?」
「うめバァこの間亡くなったんだ…」
「え? 知らない。この間っていつ?」
と真顔で睦月を見つめた。
「2カ月ぐらい前かな…」
「そうなんだ…。ねぇうめバァのお店行かない?」
「いいけど店開いてないよ」
「えっ」
「店引き継ぐ人がいないとかで廃屋になってるって聞いたけど…」
「そうなんだ…。でも行きたい」
と弥生は悲しい顔をしていた。
「分かった…」
睦月は弥生を自転車の後ろに乗せ家とは逆方向にこぎ始めた。巡回中のパトカーに出会わないように30分程こぎ住宅街の古ぼけた小さな店の前で止めた。
「変わらないね…」
と弥生は自転車から降り上を見上げた。
玄関の上に横文字で『駄菓子屋』と書かれた看板があり、うめバァはよく玄関横の小さな畑で実ったミニトマトを「おまけだよ」と言ってはくれた。そんな人だった。
「酷い…」
と畑を見つめながら呟く弥生。
その畑には『立ち入り禁止』と赤字で書かれた看板になぎ倒されたミニトマトの苗が赤く実を付けていた。
「植えたばかりだったんだろうな」
「うん…」
睦月は敷地に入りミニトマトを二つ取り弥生に一つ渡し、一緒に食べた。
「甘い…」
と弥生は呟き、コンビニの袋から飴を取り出し玄関の石畳に一つ置いた。
「うめバァごめんね。知らなくて…」
と玄関に向かって呟き肩を震わせていた。その姿を見た睦月はうめバァの死を弥生に伝えなかった事を本当に後悔していた。睦月は弥生の頭を軽く叩き「行くぞ」としか言えなかった。
「うん…」
弥生はゆっくり立ち上がり睦月を見て「ありがとう…」と呟いた。
「これからどうする?」
「ひとまず家戻ろう。制服花火臭くなるの嫌だし」
「うん…」
それから睦月は弥生を自転車の後ろに乗せ無言のままこぎ始めた。家の近くに来た頃弥生の方から口を開いた。
「夕焼け綺麗だね」
睦月は空を一瞥し「あぁ」と頷いた。
青空が夕陽色に染まりつつあった。
睦月は家の前で自転車を止めると弥生は降り「行く時連絡するね」と微かに笑った。
「あぁ。うん…」
弥生は玄関へ歩き始め、その後ろ姿を見つめていた睦月はふと自転車のカゴを見ると花火の入ったコンビニの袋が…。
「あっ、おい!」
弥生は振り返り口の端を持ち上げると「花火持って来てね。じゃまた後でっ」と一方的に言われ「はい?」と言いたいが当の本人は家の中に入ってしまい睦月は微かに首をかしげた。
≪続く≫
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