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つらいとき、すがるように読んだ本

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」

『星の王子さま』の一節で、あまりにも有名かもしれないけれど、自分が最近よく思い返して、大切にしている言葉である。
実はこの本を読んだのはつい最近になってから。あまりにも仕事をしたくなくて、たまたま急ぎの案件はなかったので思い切って有給を取得した日に近所の古本屋でたまたま手にとったのがきっかけだった。秋の初めごろ、曇りの日だったと思う。平日の公園で、コーヒーを飲みながら本を読む背徳感は最高なはずなのに、気分が上がりきらない程度には、疲れ果てていた。

冒頭の文章は、実は「王子さま」ではなく、友達の「キツネ」の台詞である。
王子さまは小さな自分の星を飛び出して様々な星を旅していたけれど、自分の星には面倒を見ていた「バラ」がいた。そのバラはわがままで奔放で、しばしば王子さまを困らせていたけれど、王子さまにとってそのバラは他のバラとは違う、たくさんの時間を共有したたった一つのバラだった。それに気がついた王子さまにキツネが教えた「秘密」が、「いちばんたいせつなことは、目に見えない」なのだ。

この文章が心に残ったのは、自分がそのときまさに、「たいせつなこと」を見失った大人になりかけていたからだと思う。

忙しいという字は心を亡くすと書く。毎日早朝から深夜まで、あれこれと仕事や数字に追われ、まさに心がなくなっていて、まともに機能していない状態だった。仕事でもプライベートでも、目に見える数字や文章だけを判断基準にしていて、その背景にあるものについて考えることをほとんどしていなかった。たいせつな友人にデリカシーのないことをしてしまい、傷つけてしまったこともあった。すごく後悔している。
誰かと仲良くなることは、目に見えない時間や愛情を積み重ねることである。
これは人に限らず、何かを好きでいることも同じで、私はきっと今まで、目に見えるものや行動に頼りすぎていた。好きなアイドルのCDも、全形態買っただけで満足しているものがある。申し訳ない。

そんな自分に足りないものや、余裕のない状態に気がつかせてくれたのが、『星の王子さま』であり、「いちばんたいせつなことは、目に見えない」という文章だった。

行き詰まったとき、本がたくさんある場所に行くと自分にとって必要な言葉と出合うことができる。「言葉」という目に見えるものの中に飛び込んで、目に見えない自分の興味関心や、心の状態に耳を傾けながら散策するのはとても気持ちがいい。もし、私のように何となくつらいけれど、誰かと話すのは億劫なときは、ぜひ図書館や本屋にいってみてほしい。もしかしたら、自分のことを一つも話していないのに、欲しかった言葉をかけてくれることが起きるかもしれない。
少なくとも私は、そうやって出合った言葉に救われながら生きている。

たいせつなものは目に見えなくて、気がつくのが難しいときもある。だからせめて、たいせつだと気がつけているものは、王子が毎日バラに水をあげたように、自分ができる精いっぱいの愛情を注ぎたい。

#1ヶ月書くチャレンジ 『誰かに言われた大切な言葉』

今日のカバー写真は、『星の王子さま』を読んでいた場所から見た木漏れ日です。

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