競合禁止規定と新自由主義:創作のための時事勉強会19

※注意
 本記事は時事的問題について、後で振り返るためにメディアの取材や周囲の反応を備忘録的にまとめたものです。その性質上、まとめた記事に誤情報や不鮮明な記述が散見される場合があります。閲覧の際にはその点をご留意ください。


事例概要

広告のタレント起用問題

上記ツイートの画像

事例まとめ

 大正製薬「リポビタンD」の広告に起用されていたサッカー選手三浦友和の広告採用を巡る同業他社サントリーウェルネス社、そしてタレントの広告出演管理を行うハットトリック社の間で起きた問題。

 大正製薬がリポビタンシリーズの錠剤タイプの広告に三浦氏を起用しようとしたところ、錠剤タイプは契約に含まれないとしてハットトリック社がこれを拒否。同時にサントリーウェルネス社の同種錠剤タイプの広告に三浦氏を採用させているという。

詳細

競合禁止規定

 同業他社の商品に同一タレントが出演すると消費者の混乱を招くことなどから取られる措置。競合禁止の規定はいくつかの種類があり、商品の分野や企業の分野などジャンルを特定して行われるようだ。

 事例発見時のツイートではブランディングの簒奪、つまり「文化の盗用」に近しい発想で競合禁止規定を見ていたが、キャスティング調整企業の上記説明を見る感じ、企業の信用問題も大きな比重を占める課題のようだ。

 大正製薬のアナウンスでは、自社の正当性と利益を主張する説明が大半だったためそこにも発想を引っ張られた形。だが例えば、リポビタンDのCMに出ているスポーツ選手が、錠剤タイプとはいえ類似製品のCMに出ていれば、普通は同じ企業の類似製品だと思うだろう。消費者は基本的にそこまで熱心に、商品のデータを見てはいない。

 その結果誤解を生じれば、同業他社は「紛らわしい広告で消費者を釣った」し、大元の企業は「紛らわしい広告の存在を許した」し、起用タレントは「類似製品の広告に出る不義理をした」と消費者から三方悪印象を受けるため、広告出演管理企業が契約を管理しているという様子らしい。

 企業が広告出演管理企業を間に挟んでタレントと契約しているのは、こうした面倒な手続きを簡略化しつつ競合禁止規定を互いに守ろうという試みだろう。ところがサントリーウェルネス及びハットトリックはむしろ競合禁止規定に抵触しかねないことをしたわけで、大正製薬からすればハットトリックをわざわざ間に挟んだのに仲介料の払い損、という状態だ。

新自由主義

 ネオリベラリズム。簡単に言えば「政府の介入を最小限にして市場原理主義に基づいて経済活動を行うことを重視する」もの。よく聞く単語だが、この思想を突き詰めたキャラクターとして有名なのが『幼女戦記』のターニャだったりする。

 今回の広告の件で新自由主義を連想したのは、各企業の対応についてである。サントリーウェルネスは競合禁止規定に抵触しかねない起用を行い、本来はそれを止めるべきハットトリックも加担した。上述の通り競合禁止規定が消費者からの信用を企業が維持するための方策とするなら、その信用を棄損しても一時の広告効果を優先するのは新自由主義的だと言える。

 一方、大正製薬は裁判に負けており、道義的にはともかく裁判所という第三者的な判断としてはサントリーウェルネスに問題はないとされている。ところが今回、大正製薬はこのような声明の発表に踏み切っている。建前としては競合禁止規定の反故によるタレント起用問題への提起だが、あくまで自社ブランドの権利の主張に留めるあたり、相手企業への報復的な告発という側面もありそうだ。

 新自由主義は政府の市場への介入を嫌うが、それは同時に政府以外のあらゆる介入に対しても消極的であるという傾向を意味する。市場原理による競争こそ重視するならば、介入による調整は政府であれそれ以外の権威的な何かであれ嫌うことになるからだ。ゆえにサントリーウェルネスは競合禁止規定抵触すれすれのタレント起用に踏み切るし、大正製薬も裁判所の判決を半ば無視した私刑的な報復を行う。

ちなみに

 親元であるサントリーのこうした発言が注目されたのが大正製薬告発の前後。元々サントリーは桜を見る会への酒類提供問題などもあったので、告発してある程度味方を得られる算段もあったのではないかと邪推してみる。

 基本的にネット世論は保守的というより極右的なのでこうした方向からの支持は得られにくいのだが、サントリーはネトウヨから「反日企業」認定を受けたこともあるので……。

 ちなみにサントリー社長の納期発言だが、これも実に新自由主義的である。というのも新自由主義においては「小さい政府」が目指され、その過程で公共事業の民営化は主流な動きでもあるからだ。行政的で非営利的なものをすべて営為的な企業活動と同種に考えるのは特に日本では典型的な新自由主義的な考えと言えるかもしれない。

参考

※新自由主義的な合理思考を持つエリートサラリーマンが幼女ターニャに転生して戦争を生き抜く異色の異世界転生物。新自由主義というか極端な合理主義的思考の馬鹿らしさが表れている。

※上記日本総研サイトにて紹介されていた日本における新自由主義の参考資料。どの程度のものかはさておき、現在では当の小沢氏自身新自由主義に反対の立場を取っていると当該サイトで表記されている。


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