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テイラー・スウィフトと英米文学⑥ ロマン派詩人William Wordsworthとthe lakes

テイラー・スウィフトと関連の深い文学作品を勝手に紹介します。第6弾です。

久しぶりの更新となりましたが!

今回はfolkloreのボーナストラックthe lakesについて、知っておくと少し嬉しいかもしれない豆知識を書こうと思います。

英文学好きにはたまらないモチーフやフレーズが散りばめられている情緒的な歌詞です。読書家のテイラーらしさが詰まった素敵な曲ですね…。

ElegyとEulogy

the lakesは恋人と湖を訪れた語り手の話となっていますが、こんな問いかけから始まります。

Is it romantic? How all my elegies eulogize me
私は自分を讃える弔歌ばかり書くの ロマンチックでしょう?

まずelegyとeulogyの文学上の定義から少し。

Elegyは弔歌、eulogyは讃歌にあたります。
どちらも故人の死を悼む文学ジャンルですが、弔歌は哀しみの気持ちを表すことが主題となり、讃歌は故人の美点を讃えることが主題となっています。

死んだのは誰か

豆知識というテーマからは逸れてしまいますが、このelegyで弔われているのは誰なのでしょうか。(ここはただの推測なので、興味がない方は読み飛ばしてください。)

あくまで私の解釈ですが、「昔のテイラー」なのかなという印象を受けました。というのも、冒頭の3文を読んでいるとLook What You Made Me Doを思い出すんです。

Is it romantic? How all of my elegies eulogize me
I'm not cut out for all these cynical clones
These hunters with cell phones

私は自分を讃える弔歌ばかり書くの ロマンチックでしょう?
冷笑ばかりのクローンとは仲良くなれない
携帯を武器にする狩人たちとも

「昔のテイラー」が死んだ、という表現は、Look What You Made Me Doでも取り上げられています。

Look What You Made Me DoのMVは自嘲気味に彼女のメディアイメージを扱っていますが、そこにはクローン風の女性たちの姿や、携帯を構えて彼女を陥れようとするセレブもありました。"All these cynical clones, these hunters with cell phones"という表現と重なるような気もします。

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このMVを思い浮かべると、the lakesはテイラー自身の過去のいざこざや自嘲気味に書いてきた曲を全て捨て置いて新たな人生として恋人と旅に出ている様子を歌っているのかな、などと考えてしまいます。

The Lake Poetsと呼ばれたロマン派詩人たち

the lakesの歌詞はこう続きます。

Take me to the lakes, where all the poets went to die
I don't belong and, my beloved, neither do you
Those Windermere peaks look like a perfect place to cry
I'm setting off, but not without my muse

湖へ連れて行って 詩人たちが死ぬ場所に選んだあの湖へ
私はここにいるべきじゃない 愛しい人、あなただってそう
ウィンダミア湖の峰で泣きたいの
私はもう行くよ 私だけのミューズを連れて

ウィンダミア湖はイギリスのLake District(湖水地方)と呼ばれる地域にあるのですが、この湖水地方は19世紀前半に当時を代表する詩人たちが住んでいたことでも知られています。

William Wordsworth, S.T. Coleridge, Robert Southeyをはじめとする彼らはThe Lake Poets (湖水詩人)と呼ばれ、自然の美しさを題材とした多くの作品を残しました。

その作風は様々でしたが、彼らの作品は現代では「ロマン派詩人」という広い括りで説明されます。

ロマン派とは

「ロマン派」とは、文学においては1780年代から1830年頃に書かれた作品、あるいは書き手を指すことが多いです。

この時代の文学作品は、中世(大体11世紀~15世紀前後)の作品にみられたような、自然や空想をベースにした幻想的な世界観を復活させたことが特色です。

「ロマン派(Romanticism)」という言葉からは、一見ロマンチックな恋愛物のような印象を受けますが、そうとも限りません。
愛をはじめとする、人間の感受性や想像力が中核にある作品がざっくりと「ロマン派」に分類されます。

the lakesの歌詞を読むと、ロマン派っぽい詩だな、と思います。冷えた地面から伸びる赤い薔薇、足にまとわりつく藤の花、眼前にそびえ立つ崖などの大自然のイメージが語り手自身の深い哀しみや愛情とリンクしているようにも思えます。

ロマン派文学は散文や戯曲もありますが、全盛期には特に詩が多く執筆されました。
そして、イギリスのロマン派詩人の中でも代表格なのがWilliam Wordsworthです。

the lakesの中でも、"What are my words worth?"という部分が歌詞カードでは"What are my Wordsworth?"と書かれていましたよね。ワーズワスを意識したテイラーのお茶目な言葉遊びでかわいいです。

ウィリアム・ワーズワス『序曲』

せっかくなのでワーズワスの有名な作品の一つ、『序曲』を紹介させてください。

ワーズワスの詩は草花や風の描き方が叙情的で大好きなんですが、中でも『序曲』は自叙伝の側面もあり、彼自身が語りかけてくるような文章が面白いです。

中でも好きな一節を抜粋します。特にテイラーとの関連性はないです、ただ好きというだけです。

What we have loved,
Others will love, and we will teach them how;
Instruct them how the mind of man becomes 
A thousand times more beautiful than the earth
On which he dwells.

詩人たちよ、愛する世界を書き留めるのだ
子孫たちが世界の愛し方を忘れぬように
そしていつの日にか、人間の想像力は
この地球のどんな風景よりも美しいものを生み出すだろう

『序曲』はめちゃくちゃ長いのですが、抜粋のみの対訳が出版されているので、よければ読んでみてください。


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