インド1人旅 1

スペイン風邪以来のパンデミックが世界を覆うことを誰が想像しただろう。インターネットを作った人達はリモート飲み会をしたり、ずっと家にいてスマホをスワイプし続けて現実と理想が乖離して心が病んでしまったりする人の未来は見えていたんだろうか。どんな願いを込めて文明の発達を信じたのだろう。きっと、今年から何もかもが本当の意味で元通りにはなっていくと思うけど、その 失われた3年 は取り戻せるのだろうか。
なんてこれから向こう1ヶ月の自由が待っている人間が考えないような安っぽいことが頭の中を流れるうちに、アナウンスはフライトの案内が聞こえてくる。
パリ、シャルルドゴール空港からサウジアラビア航空ジッダ行き6時間ほどのフライトを終えて経由して、向かう先はインド、デリー。

フランスで久しぶりに再開できたセドリックとの日々と、留学からフランスに行くまでの日々を反芻しながら眠りにつくと、気づいたら飛行機はデリー空港にソフトランディングした。
入国チェックも特に問題なく無事入国。
「enjoy your journey」
イミグレの男がやけに優しかった。
必要最低限のお金をおろし、空港内のSIMカードショップでアクティベートをしてもらう。
空港を出ると、分厚いスモッグが街を灰色に包んでいる。1月のインドの都市部は、
霧と大気汚染で灼熱の国の昼間でも太陽は姿を見せない。客引きを突っ切りメトロに乗り込み中心地ニューデリーへ。

メトロの窓から流れる景色を向こう側に、写る自分の姿をぼんやり眺めると、不安と期待が入り混じって絶え間なく胸がドキドキする。
ついに1人っきりだなあ。インドの街はどんな感じなんだろう。きっと人のエネルギーに満ち溢れ、沢山の文化が混じる空気に包まれながらも、人の笑顔と暖かさが溢れているのだろう。
そしてこの旅が終わる頃には自分は今までより少し逞しく、そして優しくなれているのだろう。
ここらへんから、自分の心の声がはっきりと聞こえてくるようになる。
あーこれこれ、この感じね!!

しかし、静かなメトロから出て地上へ出ると、
そんな妄想の甘美な部分はどこかに吹っ飛ぶ。
トゥクトゥク、車のクラクション、排気ガス、道端に広げられた野菜、うねる人混み。
やっぱり、インドが待っていた。
思えば2020年3月、前日に入国禁止になり5月に大使館にビザ取得のために預けてたパスポートを取り返してから、ずっと机の中にしまっていた地球の歩き方2018〜2019のインド編。
今回はそいつもフランス出国前に引っ張り出してきた。汚さのある空気を怖がらずに目一杯吸ってみた時に、自分の中で止まっていた時計が緩やかに動き出そうとしているのがわかった。あの時の自分を一緒に連れてこられている。
あぁ俺の旅が始まるんだな。

その日のうちに次の街に行こうと思っていたのでまずは電車の切符をゲットしたい。
悪名高き街の中心部を繋ぐバザールへの陸橋をかき分け、外国人専用チケットオフィスへ向かうもクローズの文字。

この赤のライト、もう不安になる

「コロナになって閉まったぜ。チケットの場所俺が教えてやるよ」
待っていましたと話しかけてくる1人の男。
感覚経験則でいうと、こういうのは大抵旅行代理店にひっぱり法外な値段を突きつけてくる。そして、ということはチケットオフィスは確実にある。しかしとりあえずのぼったくってくるのであれば、その相場を聞いてみようと思い、一緒に彼の経営してるというツーリストインフォメーションセンターという名の旅行代理店へ。回りたい都市と中間の目標地点のバラナシを伝えるとチケットを日付と逆算して値段を出してくれた。意外とびっくりするほど高くなかったけど、これより遥かに安く行けるし、逆にどこまでこれよりも安く行くかが、自分の1個のささやかな挑戦にもなった。
ありがとね!と半ば強引に外に出たあと、
いやもしかしたら行ったあの時たまたま閉まっていて、今空いてるかもしれないと感じ、再び外国人センターへ。
やっぱり閉まってる。
そしてまた違う男が話しかけてきた。
どうやらそいつは新しくできた外国人のチケットオフィスまで案内してくれるみたいだ。
バイクで送ってやるというので後ろに乗り込み渋滞の針を縫うように進むと、
ん?なんか見覚えあるな。
止まった先はさっき来た旅行代理店。
やられた。同じチームだった。
さきほど法外な値段をふっかけてきたスタッフがこちらを見ると、少し苦笑いしていた。

持っている地球の歩き方はコロナ前の情報であり、それ以外は特に調べても来なかったので、
仕方なく、有名な日本人宿に行って話を聞く。どうやら近くに新設のチケットカウンターがあるみたいだ。夜8時に閉まるようで時刻はすでに7時を回っていたので大急ぎで向かう。
場所は駅から少し歩いた程度の場所で、
自分が何往復もした場所だった。

さすがにこれはわかんねえな


ジャイプール行きのチケットはもう明日の早朝しかないそうなので、チケットを購入し、話を聞いただけでは少し申し訳ないので、
今日の宿は日本人宿にした。
最初で最後の日本人宿だろう。

近くの店での初のインドカレー

意外と冷静な自分と、コンパスを持たずにどっかに行きたくなる自分の2つの感情がぐるぐるまわる。ドミトリーのベッドは相変わらず寝心地は悪い。でも、これが俺の知ってるやつだ。


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