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VO2maxゾーンって何だ?③ 速筋のコスパ

VO2maxゾーンについての第三弾、今回は速筋のコストパフォーマンスが関係しているよということをご説明していきます。

是非、読み進めてみてくださいね。



速筋線維は疲労に弱い

ヒルクライムにしろ、平坦を巡行しているにせよ、強いパワーをキープするためには一漕ぎ一漕ぎしっかりとペダルにパワーを伝えなければなりません。

筋肉たちにはあまり休む暇がありません。

しかし筋線維は収縮→回復をくりかえさないとすぐにパワーは目減りして、必要なワット数をキープできません。

もし回復しなければどうなるのか、このことを動物の遅筋線維と速筋線維を取り出して収縮を繰り返した実験結果からご覧いただきましょう(下図)。


遅筋線維も100回収縮させると疲労が見えますが、速筋線維は10回目の収縮ですでに遅筋の100回目と同じほど疲労しています。そして88回目には始めの3分の1ほどの力しか出力できていません。

このように速筋線維は大きな力を出すことができる代わりに、疲労には弱いと言えます。


速筋線維は回復に時間もコストもかかる

上の図でお見せしたように、筋線維は疲労すると出力が弱まっていきます。

VO2maxゾーンでは強いパワーを発揮し続けるために速筋線維も積極的に動員されるので、速筋線維には早急に回復してもらわねばなりません。

しかし残念ながら速筋線維の疲労からの回復には遅筋線維に比べて時間もコストもかかってしまいます

それには多くの理由があるようですが、ここでは主な理由を2つご紹介します。


1.ミトコンドリアが少ないから

筋線維が疲労から回復するためには、ミトコンドリアの助けが必要です。

筋線維は収縮を繰り返すなかで薪の燃えカスのようなものを溜め続けますが、ミトコンドリアがそれを処理するために働いてくれます。

ミトコンドリアの働きを阻害してしまうと、下図のように持久力のある遅筋線維ですら大きな疲労を抱え込むことになります。


100回目の収縮には大きな差がありますね。

このようにミトコンドリアは回復のために重要な役割を担っている訳ですが、ミトコンドリアの数は遅筋線維を1.0とすると速筋線維(酸化型)は0.7、速筋線維(解糖型)は0.4ほどの数になるようです。

そのため、遅筋線維よりも速筋線維では回復に時間がかかってしまいます。


2.無酸素的にエネルギーを作るのが得意だから

速筋線維は強い力を発揮でき、かつ短い時間に多くのエネルギーを無酸素的に作り出すことができます。

比較をしてもらうため、それぞれの筋線維タイプ別の能力をご紹介します(下図)。

表の「解糖系」が無酸素的なエネルギー産生になり、速筋線維のポテンシャルは遅筋線維の1.5倍以上です。


このように速筋線維は無酸素的にエネルギーを作ることが得意な分、そのコストとして水素イオン(H+)などが多く発生して、筋線維内の環境は悪化します。

これを元に戻すために余計にエネルギーがかかり、そして余計に時間がかかってしまいます。


VO2maxゾーンで多くの酸素が必要になる理由

VO2maxゾーンで速筋線維が積極的に動員されると、酸素の取り込み(VO2)が増えていく流れをまとめます。

  • 速筋線維は回復までに時間がかかる

  • その上、回復するためのコストが高くつく

  • 回復するために有酸素的なエネルギーのサポートが必要

以上の3点から、速筋線維は働けない(収縮力を発揮できない)状態になりやすいため代わりに動員される速筋線維の数がどんどん増えるし、使った速筋線維はすべからく回復のために有酸素エネルギーを求めます。

言い換えると速筋線維はシステムが使えないダウンタイムが長いのに、その間にも有酸素エネルギーのランニングコストがかかります

VO2maxゾーン以降では速筋線維の動員が増えることは以前の記事でご紹介させていただきました。

VO2maxゾーンでは速筋線維を積極的に動員していかないと求められる高いパワーを維持できないけれど、速筋線維は回復のために多くの有酸素性のエネルギーを求め、それがないとダウンタイムから脱出できません。

速筋線維の疲労は進み、回復のために必要な酸素量が増え続ける。

このことがVO2maxゾーンで酸素の取り込みが増えていく理由の一つです。

酸素を取り込める量が上限に達する(VO2max)と、短い時間しかその状態をキープできませんから、発揮できるパワーは次第に下がっていきます。

ちなみにLTゾーン以下では速筋線維を動員しつつも、必要な酸素コストがそこまで高くないため上限(VO2max)に達することはありません。そのため割合長い時間パワーをキープすることができます。


おわりに

3回の記事にわたって、VO2maxゾーンって何だ?を科学的な視点から説明してみました。

ポイントは速筋線維の疲労のしやすさと回復コストの高さにあって、VO2maxトレーニングは速筋線維のこれらの能力改善も狙っています。

きつい、辛いVO2max系のトレーニングですが、その肝は高い出力で速筋線維を疲労させた状態でも辛さに負けずに踏み続けることです。

その一踏ん張りが豊かな未来につながります。

来年の富士ヒルにつながります。

私も今からVO2maxトレーニング、頑張ります!!

皆さんも日々のトレーニング、是非頑張ってくださいね。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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今後ともよろしくお願いします。



引用文献

  1. Westerblad, H., Bruton, J. D., & Katz, A. (2010). Skeletal muscle: Energy metabolism, fiber types, fatigue and adaptability. In Experimental Cell Research (Vol. 316, Issue 18, pp. 3093–3099). Academic Press Inc. https://doi.org/10.1016/j.yexcr.2010.05.019

  2. Zierath, J. R., & Hawley, J. A. (2004). Skeletal muscle fiber type: Influence on contractile and metabolic properties. In PLoS Biology (Vol. 2, Issue 10). https://doi.org/10.1371/journal.pbio.0020348

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