VO2maxゾーンって何だ?② 速筋線維の動員
前回記事に引き続き、VO2maxゾーンについてスポーツ科学的な視点で説明してみようという記事です。
今回の記事では「VO2maxゾーンって何ぞや?」という疑問に答えるべく、「全ての筋線維が必死に働いているゾーン」であることを研究結果をもとに視覚的にお伝えします。
是非、読み進めてみてくださいね。
遅筋線維と速筋線維
筋線維タイプの分類の仕方はたくさんありますが、今回はシンプルに遅筋と速筋という分け方でご説明していきます。
ご存じの通り、遅筋線維は持久的な運動が得意でマグロの刺身のような赤身のイメージです。一方で速筋線維のような力強さはありません。
速筋は瞬発的に大きな力を出すことが得意な線維で、タイの刺身のような白身のイメージ。瞬発力はあるものの、すぐに疲労してしまいます。
では、ここでみなさんの外側広筋(太ももの前外側の筋肉)を触ってみてください。一体どのような筋線維からできているでしょうか?
ちなみに外側広筋には40万本も筋線維があるようです。髪の毛が10万本くらいですので、その4倍ほど!
先ほどの質問に戻ると、「人によって異なる」が答えになるのですが、お伝えしておくべきことは一つの筋には遅筋線維も速筋線維も混ざっているということです。
遅筋線維と速筋線維が28万本:12万本(7:3)の人もいれば、20万本:20万本(5:5)という人もいて、どちらかのタイプの筋線維だけということはありません。
髪の毛でいえば、全部白髪になることはありません。黒(茶)も白の毛も一緒くたに混ざっているイメージです。
各ゾーンの遅筋線維と速筋線維の働き方
皆さんの筋肉が遅筋線維と速筋線維のハイブリッドであることをご説明しました。
続いて遅筋線維と速筋線維に分けた場合、それぞれの筋線維は各パワーゾーンでどれくらい活動しているのかを見ていきましょう。
まずはパワー・トレーニング・バイブルでも参照されている論文の図をご覧ください。
こちらの図では、外側広筋の遅筋線維と速筋線維がどれくらいの割合で活動しているかを示しています。100%でその筋線維すべてが動員されています。
この論文では速筋線維を有酸素能力もある程度持っている<酸化型>と、解糖系の能力に秀でている<解糖型>に分けています。酸化型の方が有酸素能力の高い速筋線維で、解糖型の速筋線維は速筋線維の中でもより瞬発能力に長けています。
この論文の図に、パワーゾーンをあてはめてみました。
この図を見ると遅筋線維は持久~それ以上のゾーン全てにおいてほとんどの線維が動員されていることがうかがえますね。働き者です。
一方で速筋線維(酸化型)はテンポゾーンで50%強ほど、そしてVO2maxゾーンでほとんど全ての筋線維が動員されています。
速筋線維(解糖型)に至っては、LTゾーン以降でないと働かないという怠けぶり。しかしその分、ラストスプリントなどの要所でしっかりと働いてくれてもいます。
VO2maxゾーンでは遅筋線維、速筋線維のほとんどが動員されていますね。
低強度域で速筋線維は黒子役
続いてVO2maxゾーンの特徴を深堀りするために、もう一つ論文をご紹介します。
次にお見せする論文では各ゾーンのパワーを維持している中で、どのように糖(グリコーゲン)が消費されていくのかを時間を追って調べています。
まずは非常に軽い負荷、リカバリーゾーンの結果を見ていきましょう。
先ほどの図と同じ外側広筋を調査していて、今度は筋線維を遅筋線維と速筋線維の2つに分けています。
色の濃淡はエネルギー残量を示していて、濃い色ほどほとんど糖分(グリコーゲン)を使用していない、あまり活動していない状態。
逆に薄い色ではほとんど糖分(グリコーゲン)が残っていない、酷使されている状態です。
たとえば遅筋線維の40分経過後は、20%ほどの線維はほぼエネルギーが満タンで、残りの80%ほどの線維が動員されていて少し糖を消費しているという見方をしてください。
120分経過後は全ての遅筋線維が動員されています。
そして時間が経つごとに遅筋線維のエネルギー残量が刻々と減っていることが分かります。180分後にはほぼエネルギーの残っていない線維が40%にもなっています。
ここで注目してほしいところは、速筋線維は遅筋線維がまだ余力のある120分後まではほとんど動員されていないけれど、遅筋線維のエネルギー残量が怪しくなってくる180分後には少し動員されています。
強度の低いゾーンでも、遅筋線維のサポートをするかのように速筋線維が働き始めることがうかがえます。
このことを持久(ゾーン2)、LT(ゾーン4)でも追跡してくれているので、そちらもご紹介しておきます。
どちらのゾーンでも、遅筋線維の疲労を補うように速筋線維の動員が行われているように見えます。そのためどの時間帯でも遅筋線維の方がエネルギー残量は低くなってます。
※この論文は1974年に発表された古典的な論文になります。VO2maxの測定方法や定義が現在と若干異なるため、各ゾーンのあてはめは論文中に記載されていた血中乳酸値や継続時間から推測しています。
黒子役から主人公へ
さて、以上はVO2maxゾーン以下の遅筋線維と速筋線維の働き方について見てもらいました。次は話題の中心、VO2max強度でのエネルギー消費推移をご覧ください。
120%VO2max強度を3分、10分の休憩をはさみながら繰り返し実施した時のエネルギー消費の推移です。
さきほど(LTゾーンまで)と比べてみると、VO2maxゾーンでは速筋線維はサポート役というよりも遅筋線維と共に本格的に稼働していることがうかがえます。
むしろどのセットを見ても、速筋線維の方が遅筋線維よりもエネルギー消費が進んでいます。
この結果から、VO2maxゾーン以上では速筋線維は黒子役から主人公のような役回りに変わったことが分かります。
まとめ
以上のことをまとめると、
高い強度のゾーンになるにつれて速筋線維の動員率があがっていく(一つ目の論文)
動員された速筋線維は、VO2max未満のゾーンでは遅筋線維の疲労をサポートするように働いている(二つ目の論文)
VO2maxゾーンでは遅筋線維と速筋線維がほとんど全て動員される(一つ目の論文)
VO2maxゾーンでは、速筋線維も主体になる(二つ目の論文)
ということで、VO2maxゾーンとそれ未満のゾーンを分けるのは速筋線維の動員数と働きぶりにあると言えそうです。
次なる疑問
VO2maxゾーンのパワーをキープするために速筋線維の動員が増えていくと、必要な酸素はどんどん増えていって最終的に取り込める酸素の量は限界(VO2max)に達する、これがVO2maxゾーンの特徴の一つです。
ここで疑問となるのが、速筋線維は元来無酸素的にエネルギーを作り出すことが得意です。
今回ご紹介した論文での糖の利用も、無酸素的に解糖系でエネルギーを作り出していると考えると、なぜ取り込む酸素を増やさねばならないのかが少し謎に思えます。
次回はそのあたりを説明するために、速筋線維のコスパの悪さを紹介してみます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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参考文献
小林公一. (1991). ヒ ト大腿四頭筋の筋線維構成について. 昭医会誌, 51(2), 186–196.
Vollestad, N. K., & Blom, P. C. S. (1985). Effect of varying exercise intensity on glycogen depletion in human muscle fibres. Acta Physiologica Scandinavica, 125(3), 395–405. https://doi.org/10.1111/j.1748-1716.1985.tb07735.x
Gollnick, P. D., Piehl, K., & Saltin, B. (1974). Selective grycogen depletion pattern in huma musscle fibers after exercise of varing intensity and at varying pedaring rates. In J. Phygiol.
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