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サマセット・モーム「人間のしがらみ」(河合祥一郎訳)を読んで

ここ1ヶ月半ほどかけてちまちまと読んでいたモームさんの「人間のしがらみ」を読み終わった。最初「上」の方を読み始めた時は、この本の面白さを自分は感じることができないのではないかと不安だったのだが、その巻の中盤くらいから主人公フィリップへの共感と同情が強まっていき、徐々に私はこの本に依存していった。

この本は、内反足というハンディキャップをもつ主人公フィリップの幼少期から30代に差し掛かるくらいまでの人生の出来事、思考、感情を描いている。その中では、まあどんな物語でも大体そうだが、様々な人、場所との出会いや別れがある。私はあんまり沢山の本を読んできた方ではないけど、この本で感じたのは、フィリップ視点のそれぞれの登場人物の描き方が非常に絶妙であると感じた。リアルというか。また、タイトルにあるof human bondageというのをちゃんと感じた本だった。

それから、フィリップには共感するところ、尊敬できるところがいくつもあった。ハンディキャップと性格故の自意識過剰なところ、望んでいないことが起こってしまうような方向に向かって敢えて行動してしまうところ、他人に熱狂して流される時もあるが、そんな自己や他を達観しているようなところ。などなど。

フィリップの様々な恋愛模様も面白かった。
物語の途中、ミルドレッドという、冷たく攻撃的で可哀想な女性に沼りに沼って感情に狂ったのにも関わらず、いつしか彼女と再会したら恋ではなくただの憐憫の情に変わり果てる。それなのにフィリップは彼女を気にかけ続けてしまう。それから終盤にサリーという健康的でお姉さん気質の少女と惹かれあっていく過程とかはニヤッとしたりしてしまった。感情に狂わされる荒れた沼のような恋と、温かく穏やかな愛が強めの恋愛の対比も興味深くて、どっちも人生だよなぁと感じた。

フィリップの人生は色々起こるから最後はどんな風に終わるのかとそわそわしていたが、ラストが個人的にとてもすっきりと温かい感じで終わってくれて気持ち良かった。

作者の人生とリンクしている部分も所々あるようで、だからリアルなのか、と納得したが、現実と創作を上手く織り交ぜて違和感のない一つの物語にできる技術はやっぱりすごいなと思う。単純だけど、やはり作家ってすごい。

なかなかこの本について細かく語りきれる力量はないが、読んで良かったの一言につきる。まあ全部読み切れた本というのは大体、自分にとってとても面白くて印象に残るものである。特に長編の本は大体そう。最初面白そうと思っても読み切れなかった本はいくつもあったわけで・・・。

私にとって長編の良いところというのは、やっぱり長い時間をかけて読む分、読んでいる期間中ずっとその物語の登場人物・舞台が私の傍にあってくれるような感じがして心強いという点である。

良い本は、あえて長い期間をかけてよみたい。その分愛着は深まり、読み終わると寂しいが、その期間の自分の日々と本の中の物語の空気感がなんとなくリンクして、思い返す時に感傷に浸れる。

また私は、時にドラマチックで時にくだらないような人生を主人公のうねる感情と思考と共に長々とリアルに描くこういった本が私は大好きだ。そういう本を読むと自分の人生なんてちっぽけだなと思える。

ちなみにそういう類いの本でずっと私の中で印象に残り続けていたのはエレナ・フェッランテの「ナポリの物語」(全4巻)である。この本は私至上の衝撃(?)の本第一位に君臨する。翻訳を全巻読んだ後、この本への恋慕を抑えきれず、英訳の一巻目を買ってみたのだが、半分も読めていない。ちなみに原語はイタリア語なので断念した。

そんなことはともあれ、今回この本(人間のしがらみ)を手に取ったのは、
元々noteで度々読ませていただいている福田尚弘さんの記事でサマセット・モームのことを知り、興味を持ったことから始まる。早速図書館に足を運び、本当は「月と六ペンス」を読んでみたくて探した。が、すぐに見当たらず、代わりにこの本が目につき、長そうだから少し躊躇したけど思い切って借りてみて読んでみたというわけだ。

私は最近の時代(?)の本ばかり読んでいたから、少し時代が前の本、出版されてから時間が経ってもなお読まれ続けるような本も読みたいなとなんとなく思っていて、今回この本を読んでみたことで、これからも歴史のある本に触れていきたいと思った。あと文学についての知識がないので身につけたい。

本当は、歴史ある日本文学にも挑戦したい。家にも友人から貰った文豪の本が何冊かある。でも、なかなかはばかられてしまうのだ。昔の日本の空気感って、触れたくないような空気感がある、文体難しそう、というとても勝手な苦手意識。

最近の本でも海外文学の方が読みやすい感じがしてしまうのは、なぜだろう。海外文学か日本文学かに限らず、異国の土地や社会の空気を感じられる方がなぜか気持ち良く読めるというのもある。もしかしたら日本の人名、地名が出てくること、また原語が母語であることは妙に近くて生々しくて、心に良くも悪くも響きすぎて震えるから、それを無意識に避けたいのかもしれない。そういった理由から私はあえて翻訳されてる感じが好きなのか?とも思う。まあ海外文学を読むならば、いつかお気に入りの本を原語で読んでみたいものだけど。

あら。よくわからず脱線してしまい全然本の感想メインになっていない、気がする。まあよいでしょう。ああ、今手元にある「人間のしがらみ」を今日図書館に返却しに行くので純粋に寂しい。次は「月と六ペンス」を読みたい。あと、読みやすそうな日本作家さんの本も借りよう。

終わり。


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