石を大切にする「ノビ」という考え方。
石屋になって、初めて出会ったことで、本当に素敵だと思った考え方の1つが「ノビ」。そこには、石を大切にする気持ちや、自然のものが完璧じゃないという気持ちがたっぷり詰まっていると思っています。では、この「ノビ」っていうのは何か?
簡単にいうと「元々の大きさより少し大きめに作る。」ということ。
それは、「ちょっとサービスで大きめにしておきますね!」ってことではありません。結果的には、注文いただいた大きさより少し大きめでお届けすることになるのですが、そこには先人が石を大切に扱ってきた歴史が詰まっている…という感じです。
石の大きさを表すのは?
最近は、長さを表す単位としては一般的に「m(メートル)」を使いますが、石の大きさを表す単位は、基本昔ながらの「尺貫法」。「尺」、「寸」、「分」を使います。1尺は、およそ30.3cm。そして、1尺は10寸、1寸は10分になります。そして、和型のお墓の大きさは、「◯◯家之墓」という文字が刻まれる「竿石」の大きさで表すことが多く、一般的に8寸、9寸、1尺あたりが基本となります。
例えば、8寸のお墓を作るときは、キッチリそのままの大きさに仕上げるのではなく、大体8寸より少し大きめの8寸2分〜3分で作ります。1cm程度、大きく作ることがほとんどです。では、なぜ1cm大きく作るのでしょうか?
石は自然のもの。均一でありません。
庵治産地に来ていただけると分かりますが、庵治石は産地から見上げた丁場で採掘されています。当然ですが、自然の山を削ったところから、採られています。それゆえ、均一のものではなく、石にはキズもあります。
できるだけ、キレイなものを作りたい…というのが、庵治産地の職人の思いですが、石にはキズがあったり、「黒玉」「白玉」と呼ばれる模様があったりするので、挽いてみないと何が出るか分からないところがあります。
この時に、もしも絶対寸法ピッタリで作る!となっていたら、どうなるかというと、その石はもう使うことができなくなります。その寸法より小さいものにするか、処分するかどちらかになります。そして、作りたいものは、また新たに原石から採り直すことになります。しかしながら、こういう場合に、この「ノビ」があることで、もしも何かがあっても、1cm程度の大きさの中で、なんとかなることが多いのです。
「ノビ」の分だけ少し大きめに作るけど、何かがあった時は、8寸なら8寸ギリギリまでの間で仕上げることになります。つまり、出来上がった時は8寸よりちょっと大きいこともあるし、ギリギリになることもある…ということ。この、ちょっとした一見ゆるっとしてる…って感じる、ちょっとした融通を効かせることができるってことで、石を有効に使うことができるのです。
ボクはこの「ノビ」の考え方が好きです。これからも石を大切にしながら、いいお墓さんを作れるように、心を入れて日々修行頑張りたいと思います。
庵治石細目「松原等石材店」3代目 森重裕二
【参考】Youtubeでこの「黒玉」と「ノビ」について、模型を使って解説しています。YouTube「庵治石TV!」vol.32「”ぶどうパン”と『黒玉・白玉』のこと。」ぜひご覧ください!
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