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情報化社会へのアンチテーゼ【ショートショート】【#164】

上司「お前、マンガは読むほうか?」
部下「まぁ流行りのやつは読みますよ」
上司「食マンガはどうだ? ラーメンのマンガは?」
部下「それ今回の仕事と関係あるんですか? あ、これラーメンに使うんすか? 黒いラーメンなんですね」
上司「違う。そんなラーメン食いたくないだろ!」
部下「でも富山のブラックラーメンとか……」
上司「言い訳するな! とにかくそんな食欲を失わせるような話じゃない。あるラーメンマンガにな、『人はラーメンを食ってるんじゃない。情報を食っているんだ』というセリフがあるんだ」
部下「へ~……ああーその単純に味とかじゃなくて、どこそこの希少な材料使って、どんな調理をして……みたいな肩書にこそ重きを置いているってことですかね」
上司「おお、ものわかりがいいじゃないか。まさにそれだ。もう味がどうとかってのは二の次で、――ぶっちゃけた話、それっぽく語られていれば本質的にどうとかも関係がなかったりするわけだ。それが今の時代なんだ」
部下「なるほど。じゃあむしろこの仕事ってもう無駄な努力なんじゃないですか? 苦労して本物を集めてるわけですよね、――うわっ歯が……!」
上司「おい、気をつけろよ! 奥に手を入れすぎると噛まれるからな。ケガしても労災とかは下りないからな」
部下「ひえーほんとヌルヌルしてつかみづらいし……、早く終わらせましょうよ」
上司「まあ誰もやりたがらないからこそそこに価値があるのは確かだからな。それにな、この仕事ってのは一種のアンチテーゼなんだよ」
部下「アンチテーゼ?」
上司「そうだ。さっき言ったろう。今の人間はな、もう食ってるものも身につけるものも使うものもすべて情報に対して金を払っているんだ。本質なんてどうでもいい。そんなけしからん奴らが大勢をしめるといっていい」
部下「じゃあ、俺たちもそういう模造品みたいなやつをキレイに加工して売る楽な仕事しましょうよ」
上司「それで儲かるならやってるっての。しかし世の中はよくできてるもんでな。数は少ないけど、そういうイミテーション主義みたいなやつに強固に反対するやつもいるんだ。そして、そういうやつらが高値で『ホンモノ』を買うってわけさ。だからこそこんなキツイ仕事にも手を出してるってわけだよ。――おい、ちょっとこいつは大物だからローラーゆっくり回してくれ」
部下「わかりました。やっぱり大きいやつは沢山持ってるんですね」
上司「いや、それはそうとも限らない。小さくても沢山持っているやつはいる。ただ体が大きい奴は、体が大きい分隠せる場所が多いから慎重にやらないといけないって感じだな」
部下「……ほんと、いろいろ詳しいですね。でも今度はもうちょっと楽な仕事にしてくださいよ。もう手がヌルヌルで……、噛まれそうになるし、じんましんも出てきましたよ。こんな、『タコをしぼってスミを集める』なんて原始的な仕事やめましょうよ」
上司「さっき言ったろ。手間がかかるから価値があるんだよ。養殖じゃない天然物のスミだってうたって売りこむとこれが結構反応良くてなー。食材から書道用のスミから汎用性も高いんだよ。ほら、お前もフェラーリ欲しいだろ?」
部下「いやフェラーリはいいんで、うまいラーメン食わせてください。情報じゃなくてちゃんとしたヤツ」
上司「欲のないやつだな。わかったわかった。終ったら俺のとっておきの店連れてってやるよ」
部下「ウィーッス! よろしくお願いしまーす!」
上司「あ、おいっ! あそこタコ逃げたぞ! はやく捕まえろっ!」
部下「……ていうかさっき、食材にもスミ使用するって言ってませんでした?」
上司「まあそういうケースもあるみたいだな」
部下「じゃ、やっぱり富山ブラックラーメンじゃないですか」
上司「あんな塩っ辛いラーメンを俺はラーメンとは認めん! くだらないこと言ってないで、早くタコ捕まえろ!」
部下「はいはーい。わかりましたー」



#ショートショート #バイト #下っ端バイトはふりまわされる #仕事 #情報を食っている #ラーメンハゲ


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