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みんなでかき【ショートショート】【#175】

「3分の1づつにわけようか」
「いや誰かがまるっと持っていった方がいい。こういう時に序列を確認しなおすことは大切だ」
「なに言ってるんですか。僕がこれ買ってきたですけど?」

 穏健派なのがサトル。縦社会に染まっているのがタケシ。現実的なのがヨシヒロじゃ。このシェアハウスにはとにかくお金のない人が集まっているようでな。困ったときはお互い様ということで食材は共用という不文律があるようじゃが、誰もが等しくお金がないときなどは、結局紛争の種にしかならないのう。今日のようにかき揚げがひとつしか残っていないときなどは修羅場になるに決まっておるわい。

「お前が買ってきたとはいえ、半額の半額で買ってきたのは先週の話だ。それもみんなの金でな。そんな前の功績が残っているはずがないだろ。むしろこういうときは年長者を敬うべきであり、俺がこれを食すべきだ」
「ここ入るとき、上も下もない平等だからって言ってましたよね。今さらなに言ってるんですか。たいたい今月は金がないからとか言ってまだ食費払ってませんよね」
「まあまあ、ちゃんと払ってもらえるならいいじゃないか。早くしないと冷めちゃうよ。シェアして食べようよ」

 毎月のように白飯だけを抱えて、おかずをにらみつけているのだからいい加減少しは学べば良いのにのぅ。だいたいからしてそのかき揚げはまだ無事に食べることができるんじゃろうか? 賞味期限とやらからするとかなり危ない気がするんじゃが……。

「タケシさん、そもそも今週のトイレ掃除当番とかやってなかったですよね。そういう人が食べる資格はないと思います」
「お前だって似たようなもんだろ。昨日カギ開いてたぞ」
「カギなんて締めたところで盗るものなんてありませんよ」
「ねぇいいじゃないか。掃除や片付けなんかどうせ僕がやるんだし、僕からすればどんぐりの背比べだよ」

 要するに縄張り争いのようなものなのじゃろう。3分の1のかき揚げを取りあっているのではなく、このシェアハウスの覇権を争っているんじゃろうな。もちろんサトルはすでに脱落しとる。
 しかしこのままではらちが明かん。無駄に労力を使ってはよけいに腹も減るというものだろう。ここはひとつワシが手助けしてやるかのう。ひょいっとな――。

「あーー!! おい待てタロウ!! そのかき揚げは俺のものだ!」
「俺たちの貴重な食材が! 離さないと今後エサあげないぞ!」
「タロウくん、ネコは玉ねぎはダメらしいよ……」

 反応は三者三様だが、これで平穏が訪れたことは間違いない。私はこのシェアハウスに巣くう平和の番ネコなのニャ。



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