メガネさんが転んだ【ショートショート】【#84】

「我が市は、昔から『目』に関することに力を入れておりまして、特産物に『メガネ』があります。そして同じく特産の『だるま』と合わせて、これらを生かせるスポーツ競技を作ったらいいんじゃないか、という話になったのです」

「なるほど、特産品が先にあったわけですね。そこから着想を得て、できあがったのがこの、えっと……」

「『メガネさんが転んだ』です」

「そう、『メガネさんが転んだ』でしたね。簡単にルールをお伺いしてもよろしいですか?」

「はい。ルールは単純です。できるだけメガネを沢山かけて、『だるまさんが転んだ』をやるのです。普通、だるまさんが転んだは鬼にタッチしたら終わりですが、この競技ではタッチした人がかけていたメガネの本数がポイントになります。基本はチーム戦の5回勝負で、最終的にポイントの多いチームが優勝です。沢山かければかけるほど、身動きがとりづらくなりますが、ポイントは高くなる。この匙加減が腕の見せ所です」

「競技人口はどの程度でしょうか?」

「今年9月に行われた大会の参加者は2241人でした。おそらくですが、この数倍の人が『メガネさんが転んだ』を楽しんでいただいているのではないか、と思っています」

「かなり立派な数字ですね。これからの目標や近年の課題を教えてください」

「目標はやはり、競技人口の拡大です。できれば国際的な競技にしていきたいと思っています。メガネは全世界的なものですし、ルールは単純で覚えやすい。競技の発展とともに、うちの市のメガネも世界に羽ばたく。そんな姿を思い描いています」

「なるほど、課題はどうですか?」

「昨今、もっぱらの課題は競技形式の適正化です。その……何と言いますか、メガネだけに収まらなくなってきたのです」

「――と、いいますと?」

「……ずばり『コンタクトレンズ』です。コンタクト派の人間が、我々も競技に参加させるべきだと主張しているのです。もちろんコンタクトレンズも、メガネ同様、我が市の重要な特産物ですので、その思いは尊重したい。現在、目に何枚入れても危なくないコンタクトを開発しており、そちらを使ってメガネだけではなく、コンタクトでも参加できるように調整を重ねております」

「それは……また、大変そうですね。ポイントなどはどうなるのですか?」

「今のところまだ調整中ですが、そもそも集計するのが大変だとか、メガネが圧倒的に不利では? など様々な意見を吸い上げ、議論を重ねているところです。しかし、現在……もっと大きな問題がありまして……」

「ほう、それは……?」

「――レーシックです。昨今、かなりの数を増やしており、このままだとコンタクトとレーシックの連合により、メガネが虐げられる可能性があります。喫緊ではありませんが、三つ巴での競技形式の模索というのが我々の最終目標と言っていいでしょう」

「それはかなり大変ですね。具体的な対策案などはございますか?」

「そうですね。例えば、――いっそのことポイント制やメガネの重ねがけなどをすべて廃止してしまい、『参加者は自由に走って逃げまわり、それを鬼に追いかけてもらう形式』などを考えています。これであればルールも非常に単純でわかりやすく、レーシックもコンタクトも、メガネでも関係ありません」

「なるほど……なるほど、なるほど。えっと…………それは、単なる『鬼ごっこ』では?」

「そんなことありません。メガネを全く使わない……もしくは、メガネが重要ではないのですから。これは画期的な競技です」

「……そうですか。本日はありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございます」



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