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三度の飯より悲鳴が好き【ショートショート】【#163】

 三度の飯よりも悲鳴が好きだ。そういう性癖だと気がついたのは、もう10年以上前になる。こんな性癖をかかえながら、これまで捕まらずにこれたのだから運がいいと言っていいのだろう。
 悲鳴というのはいつ聞いてもエキサイティングだ。自らの生命がおびやかされているという状況でしか発することがない命の叫び。断末魔の咆哮。魂の一端がしぼりだされているような、そこでしか味わえない原液の質感を味わうことができる。そのとき私は何とも言えない高揚感を感じ、心の底からこの世に生をうけたことを感謝するのだ。
 悲鳴にはその人間のこれまで積みあげてきたものがにじみ出る。言ってみればそれは歌声と同じだ。世の中に数多くの楽器が存在し、数千年の人類の歴史の中でもうあたらしいコード進行などは出てこないと言われている。心地よくならべられた音には縛りがあり、そこにはどうしても限界があるのだ。
 しかし「声」というものは無限大だ。いまだに過去に聞いたことのない新しい声が次から次へと生まれてきている。個体が違い、生きる時代が違い、経験が違う限り、そこから生まれる声は同じにならない。人間が存在する限り新しい声が生まれる。そして――それは悲鳴も同じだ。人間の数だけ悲鳴がある。

 きっと世の中には私と同じように悲鳴を愛する人がいると信じている。ただ気がついていないだけなのだ。これほどまでに素晴らしいものが存在しているということに。自分にそういう性癖があるということに。


今日も私は悲鳴を求める。
向かう先は『富士急ハイランド』。
誰か私と一緒にいこう。



#ショートショート #悲鳴 #性癖 #歌声 #小説 #掌編小説

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)