映画『デンデラ』におけるくだらない計算【エッセイ】【映画】

 ――あれ、ちょっと待てよ、と。
 『30年で、50人』ってちょっと多くないか?

 そんな疑問を抱いたのは映画『デンデラ』を見ていた時のこと。私の悪いクセなんですが、細かい計算が気になってしまうのです。


 『デンデラ』というのは老人を山に捨てる伝説「うば捨山」を題材にした映画です。捨てられたはずの老女50人は実は生きていて、秘かに村を作ります。そしてさまざまな思いを抱えながら、過酷な自然状況のなかで懸命に生きる姿を描いた作品になります。

 この元の村では70歳になると男女問わず「捨てられる」と決まっており、捨てられるのは決まって雪山の中。村に戻っても殺されてしまうため、これまではそのまま死んでしまうのが普通でした。
 しかしそれにあらがったのが30年前に捨てられた女「メイ」。雪の中火をおこし、木の芽を食い、何とか冬を生き延びます。そして翌年以降、捨てられた女を集め、村をつくるのです。その村の呼称こそタイトルの「デンデラ」なのです。

 デンデラに迎えられるのは女だけ。捨てられてきたのが男だった時には、情け容赦なく蹴とばして見捨てる、という厳しいルールに基づき、長い歳月をかけ捨てられた女たちを集め、徐々に村の規模を拡大します。
 そして30年がたち、主人公であるカユが仲間に加わった時には、村は50人という結構な大所帯になっているのでした……


 ――というところで冒頭に戻るわけです。
 『30年で、50人』って多くない?



 村からは70歳になった人が捨てられてきます。逆に言えば70歳にならないと捨てられてこないし、男なら仲間には入れません。全員70歳を超える女だけの集団で、「子供が産まれて増えました」ということはまず考えられないでしょう。

 デンデラに居るのは50人の女。単純に捨てられた人の半分が女だったとして、30年間で100人の男女が捨てられていないと計算が合いません。30年で100人ということは、年間で3人強というところ。
 映画の冒頭は、老婆が背負われて1人寂しく捨てられていく場面から始まります。あの雰囲気からすると、数年に1人出るか出ないか……くらいのものを想像していたのですが、毎年冬場になると2人も3人も……ということであれば、結構日常的に『捨てている』と言ってもいいでしょう。


 そもそも「この時代」に70歳を無事に迎えることができた人はどの程度いたのでしょうか。
 そう思って、まず時代背景を調べてみました。しかし、これがどうもはっきりしない。フィクションということで時代考証はあまり真面目にされていないようです。ただおそらく明治初期あたりがベースになっているらしく、その時期の生存率をちょいちょいと調べてみました。

 明治時代近辺ということで大雑把に数をひろうと、70歳を迎えることができるのは大体2割程度のようですね。思ったよりも高い。ある年、村に100人の子供が生まれたとして50歳まで生きるのは半分程度。70歳まで生きるのは20人という感じ。


 ――というわけで逆算してみましょう。

 まずデンデラに30年で50人の人が来るためには、30年間で男女問わず100人が『捨てられる』必要があります。ということは年間3人強の人が70歳を迎え、捨てられるということになります。
 「年間4人」と仮定して、生存率が20%とすると、この人たちが生まれた年にはもともと20人の子供が生まれていた計算になります。――ということは、村の総人数を大雑把に表するとこう。

デンデラの人数

 面積を計算すると(下辺20人+上辺4人)×70÷2=840人。よし、ファイナルアンサー。要するに年間4人の70歳到達者を生み出すためには、もとの村は村人840人程度の規模でなければならないということです。
 もちろんこれは捨てられたおばあさんたちが誰一人死ぬことなく、全員無事助けられており、かつその後も全員生きていた想定なので、ヘタしたらこの倍くらいの規模が必要になってくるでしょう。


 結論としては、大幅な推論をはさむながら、デンデラを生み出すもとになった山間の「村」には、1000人近い人が居た、ということができるでしょう。



 ……さて1000人という人数が多いか少ないかという問題なんですけど、現在では村の上の「町」になれる基準が5000人らしくて、それに満たないと「村」という感じになるそうです。その数字自体に違和感はないんですけど、結局映画の設定されている「村」のイメージとはかなりかけ離れている気がするんですよね。

 1000人、ひと世帯6人としても166世帯。150世帯以上ある村が、あんな山奥の山村にあり、『姥捨て』などという行為をほぼ日常的に行うだろうか……。というか、おばあさんたちみんな自給自足できるんだから助けてあげてよ。作中に「50人いて、動けないのは6人だけ」という発言があるので、恐るべき健康優良集団よあの人たち。100歳になってもピンピンしてるし。


 結論的には『山間の1000人規模の村が、毎年4人を姥捨てる』という数を多いと感じるか、少ないと感じるかはあなた次第。という感じなんですけど、おばあさんしか出てこない映画という意味ではある意味見ものなので、一度映画「デンデラ」をごらんになってから、想像してみてください。

 ……え? 映画は面白いのかって? やだなぁ。そんなのはあなた次第に決まってますよ。私の口から言うのはとてもとても……



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