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おめでたい話【ショートショート】

突然だったんですよね、本当に。
おでこの真ん中に、三つめの目ができたんです。まさに「三つ目がとおる」ですよ。マスコミにもかなり騒がれました。

当時僕は高学生で、ありがたいというべきか、親はたいそう心配して近隣の病院をわたり歩いてくれました。最終的には有名な大学病院に通うことになり、そこでほぼ毎日、検査や実験づけの日々をおくることになったんです。

その代償はけっこう大きくてね。
僕はサッカー部に所属して熱心に活動していたのですが、もちろん続けることは出来なくなりました。それに友人と遊ぶこともできなくなりました。
とはいえ、目が三つになった段階でほとんどのクラスメイトからは気味悪がられていて……、もうすでにだいぶ距離を取られるようになっていたんですけど。くわえてマスコミに騒がれるようになってからは、本格的に僕に近寄る人はひとりもいなくなっていました。

ひとりさみしく学校と病院を行ききするだけの生活は2年くらい続いたでしょうか。孤独だったし、なによりつまらなかったですね。なんのために生きているのかもわからなかった。あのころは本当にどん底だったと思います。

その上、あれだけ時間をかけ、綿密に検査をしたにもかかわらず、結局、目が三つあるということ以外に異常な点は見つからなかったんですよ。
マスコミの熱も下がっていたし、研究テーマとしての興味も徐々にうすれ、自然消滅のように検査もなくなった。――でも、もちろん額にある三つめの目はなくなったわけじゃない。
自分に唯一のこった存在意義すらも価値がなくなっていくようでしたね。まさに絶望という感じでした。

もう高校は卒業する年になっていましたけれど、まともに就職する未来など思いえがけませんでした。だから部屋に引きこもって僕の人生はきっともうここまでだって四六時中思っていました。怖くてネットも見ることができず、ただ布団をかぶって震えていました。
こんなものがあるからいけないんだ、と思いつめ、三つめの目をボールペンで突き刺してやろうかと思ったことも何度もありました。目だけじゃなくて、人生自体もう終わりにしようなんてこともね、もちろん考えていましたよ。


――でも、そんなときでした。
絶望する僕のもとに、来たんです。今から考えても、見るからに怪しげな男たちがね。はるばる海をわたって訪ねてきてくれたんですよ。忘れもしないひな祭りの日でしたよ。

そこからの僕の活躍はみなさんの方がご存じかもしれません。
日本を飛び出し、タイにおもむき、そこで国技であるセパタクロー選手になるわけです。さっきいった男たちはタイからきており、セパタクローの才能がある選手を集めて回っているスカウト団だったのです。
もちろん最初は試験的でしたけれど。衣食住は保証するからやってみないかと誘ってくれたわけです。

自分に自信などまったくありませんでしたが、とにかくここから出たかった。そればかりでしたね。
言われるがままに初めてやったセパタクローはサッカーを好きだった僕としてはとても楽しかった。それに最初は半信半疑でしたが、いざセパタクローをやってみると、確かに周りの選手よりもいい動きができました。我がごとながらはじめた当初からすぐそれは実感できました。

彼らはきっと僕の詳細なデータを持っていたんでしょうね。
目が三つになったこと。それによって空間把握能力が飛躍的に高まったこと。もともとサッカーという競技をやっていて、足でボールをけることがそれなりに出来たこと。
それらの要素をかけ合わせれば、現状すぐにプロなみの身体能力がなくとも、すぐにプロでも十分活躍できるだろうという強い予測を持っていたようですね。いや、よく考えれば目が三つというのも身体能力のひとつですか。

今の僕のこの活躍ぶりからすれば、本当に慧眼としか言いようがないです。すばらしいですし、僕にとっては本当に人生のすべてを救ってもらったようなものですから感謝の言葉しかありません。

こんな姿形の僕を受け入れてくれたタイの人々に感謝してもしきれません。まだ数年、現役を続けられるんじゃないかと思っていますので、いいプレーをしで恩返ししていければと思います。ゆくゆくはこの国に帰化することも……、おっとこれはオフレコだったかな。

これが、僕の「お目でタイ話」です。
さて、次の「おめでたい話」の担当はどなたでしたかね。おあとがよろしいようで。


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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)