見出し画像

上質な出汁とは? -基本を知ることの重要性-

先日、弊社も所属してる某食品の団体で、新商品を認定いただくための官能検査部会が実施されました。
その時に、他社商品とブラインドで比較を行い、果たして弊社の商品が質の良いものであるのかどうかという試験を行います。

そこで、一つの問題点が浮かび上がりました。

弊社そして私自身は、『最上質のかつお節を届ける』ということを目標としているかつお節屋であるために、かつお節の質というものを追求し続けていました。そのため、『良い出汁とは何か?』ということを考え続けています。

以前、美味しい出汁、とはなにかという記事を書きましたが、その中で、かつお節を選別する際に

酸味やえぐみ、渋味、苦みといったものがある節は、当然ながら選別の対象外

ということを書いています。(かつお節の目利きについてから引用)

つまり、美味しいかつお節というものの基準として
・酸味がないこと
・えぐみがないこと
・渋味がないこと
・苦みがないこと
・臭みがないこと
これらが最低条件としてあるのです。

これらは他の出汁素材においても、恐らく同じことがいえるかと思います。例えば昆布であれば、磯臭さともいえるような臭いがないこと、焦げたような臭いがないこと、後口に残る嫌なエグミがないことなどです。
いりこであればもっとわかりやすいかと思います。
一般的ないりこは内臓に苦みや臭いがあることが当たり前ですが、上質ないりこになるといりこ特有と思われている魚の臭みや苦みが殆どありませんし、後口にえぐみもありません。

質の良いものを作っているものにとって当たり前と思われていた、そういった『上質な出汁の最低条件』というものが、ひょっとして一般的に認知されていないのではないかと気づいたのです。

画像1

上の写真は昆布と本枯節で引いたお出汁ですが、一切濁りがなく、澄んだ淡い色合いです。味も雑味が無く、昆布の甘味とカツオのしっかりとした味わいが合わさり、香りもふわりと立ち上る昆布とカツオの香りで、これだけでごくごく飲めてしまうほど美味しいものです。
これは当たり前のものではありません。
なぜこうなるのか、その理由がわかっていないと、正しく評価をできません。

それは、一般的に認知されていないだけではなく、料理人さんそして同業者や生産者にも知られなくなっているのかもしれないと思っています。

なぜか?

それは、そういったものが「作られなくなってきた」「手に入らなくなってきた」からに他ならず、最終的には「必要とされていない」からというところに繋がります。

「必要とされていない」というところに、疑問を感じる方もいるかと思いますが、これはその存在を知らなければ、求められていないのと同じだからです。
50年前には当たり前にあった上質な出汁の素材たちが、わずか半世紀で劇的に減少し、全体の質の低下が起こっています。

高度経済成長期に入り、丁寧な生活よりも大量生産と大量消費が基本となった時代には、丁寧に行う昔ながらの作り方では間に合わず、多少質が劣っても大量に供給出来て、且つ安いものが重宝されました。
そして、それが売れてしまったが故にそちらの生産方式が主流となっていきました。
しかし結果として、今では本来の味が忘れ去られつつあるという危機的な状況になっています。

今だからこそ知ってほしい『上質』の基本

先ほど上げた上質な出汁の基本は『雑味』がない、ということです。
純粋なうまみ以外の、苦みや渋味、酸味といった雑味があることは、良い出汁とは言えません。
また立ち上る、「におい」か「かおり」か、その質の違いも理解する必要があります。
質の良いかつお節には燻製の香りやかつお節特有の芳香はあっても、魚臭さはありません。

その基本を無くして何が『上質な出汁』であるかを判断することはできないのですが、その基本となるものを知らないというのが現代における問題であると言えるのです。

上質な出汁の条件はとてもシンプルです。
 ・雑味や臭いなどのマイナス要素が少なく
 ・美味しさの要素を多く持つ
これだけです。

しかし、シンプルだからこそ、誤魔化しが効かないために難しいのです。
上質なものが取れなくなり、作り手が減って数を減らし、言い方は悪いのですが『粗悪品』と呼ばれるものが増えてきている現状では、本当に良いものと巡り合える機会が極端に減ってきています。
いくらでも類似品があり、良いものを選ぶための基準がわからず、値段で買っても大差がなければ、どれでもいいと思われてしまっても仕方ないものです。
これは生産者や売り手側にも、大きな責任があります。
売り手側にも正しい知識と基準がなくては、正しく伝えることはできません。

ぜひ一度、質の良い出汁素材を使い、その味と香りを他のものと同時に、比較をしてみてください。
質の低いものや化学的なもので作られた出汁とは、全く別物の世界が見えてくるかと思います。

ーーーーーーーーーーーーー

おすすめの昆布屋さん
・こんぶ土居 https://www.konbudoi.jp/
真昆布を専門に扱う、恐らく日本で最後の昆布の目利きができる昆布問屋。
大阪市の空堀商店街にあり、大阪の味を支える柱のようなお店です。昆布のことは殆どこちらの土居さんで勉強させてもらいました。
これほど美味しい昆布を安定供給しているところを、私は知りません。

おすすめのいりこやさん
・いりこのやまくに https://paripari-irico.jp/
いりこを専門に扱う、こちらも目利きのいりこの問屋。
瀬戸内海で取れる、キラキラと美しい上質ないりこを扱っており、香川だけでなく日本全国で支持されています。
日本料理のお店の出汁になる、最高のいりこがあります。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。