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挑戦のシュークリーム。

『お待たせしました〜。待った?』

「いいえ。全く。今来たところです」

デパートの入り口に差し掛かろうとしたタイミングでちょうど吉田さんが現れた。

時間ぴったり。今日はいい日になる気がする。


『今日は何作るの?』

私は今日のメニューがハンバーグであること、
スープはビシソワーズであることを伝えた。

梅雨に入ったというのに、そらもスコーンとしていて気持ちがいい。

開店2分前、ほのかから『5分遅れます』とLINE。いつものことだけど、
ほのかはペース配分を考えた方がいいと私は思う。

じゃあ先に入ってるね。と返信をして、開店時間と同時に店内に入った。

開店直後の店内は全ての従業員の人たちが通路に出てお辞儀をしてくれる。

そんな簡単に頭を下げないで。と思う一方で、どこか別世界に紛れ込んだかのように気持ちを上げてくれる不思議な空間だと思う。

エスカレーターを下り、
肉屋でひき肉を買って、グローサリーのコーナーでナツメグを手に取る私に
『ナツメグはあると思う』と吉田さん。

一人暮らしの独身男性がオーブンやらナツメグやらを持っているのは
不思議だと思いながらも、じゃあ買わなくていいですね。
とじゃがいもと玉ねぎを買いに野菜コーナーへ移動した。

最後に結局15分遅れてきたほのかと合流して、
バターと生クリーム、
家に忘れてきたグラニュー糖をカゴに入れる。

あと、富沢商店によって使い捨ての絞り袋も。

吉田さんの家はデパートから歩いて5分。
会社からは少し離れているけど、静かでゆったりとしたマンションだった。

ほのかは会社の人の物件事情に詳しいようで、窓から見える建物を指さしては
「あのマンションには誰々が住んでる」
「あっちのマンションは副支店長となになに課長」
などと次々に他人の住処を明らかにしていった。

私はハンバーグをこね、フライパンで焼き目をつけて、オーブンで焼いた。

4人家族でも使えそうな真っ赤なオーブン。
前面には液晶がついてわかりやすいオーブンだった。

電気なんだけど最近のはパワーがあるんだよね。と家電メーカー勤務の私に何故か電気屋さんの受け売り情報を次々と話してきた。

焼き上がったハンバーグをランチとして食べ。

ごちそうさまをした。


そしていよいよ今回のヤマ場。シュークリームだ。

天板にクッキングシートを敷き、6センチの円を6個描いて。

ボウルに溶き卵2つ分。別のボウルに薄力粉60gをふるっておいて。

鍋に牛乳50ml、水50ml、1センチ角に切ったバター40g、グラニュー糖を小さじ1。塩を少し入れて火にかける。

お菓子作りは何より段取りが大切だと私は思う。

鍋の中身が沸騰したところで薄力粉を一気に加え一気に混ぜる。

ひとまとまりになって鍋の底に薄くまくが張るようになったら。

溶き卵を何度かに分けて少しづつ混ぜる。ゆっくり、大胆に丁寧に。

ヘラで一気にすくって逆さにし、逆三角形に落ちる滑らかさまで卵を加える。

絞り袋に金口をセットして。生地を入れて。

ゆっくり丁寧に絞り出す。一気に。大胆かつ丁寧に。

最後に霧吹きを2.3回。溶き卵を表面に塗って。


190度のオーブンで25分。
これは絶対に開けてはならない。。。

焼いてる間にカスタードをボウルに。
泡立て器で立てた、ふわふわの生クリームを合わせてディプロマットを。

リビングを見るとほのかは、吉田さんの家の観葉植物に名前をつけて回っていた。

バターと小麦のいい香りがキッチンを通り越して部屋中に広がる。まだかまだかとオーブンを何度も覗く。
残り7分。5分。2分。。。

ピピピっ!

オーブンが鳴った。熱々のオーブンをあけると。生地は。。。

膨らんでいた。扉を開けた瞬間に広がる香ばしい香り。

お菓子作りのこのワクワクが私は好きだ。

まだ外は明るい。だいぶ日が長くなってきましたね。私たちは話し合った。

シューが冷めるのを待つ。少し不恰好な子もいるけれど、
数年ぶりのシュークリーム一発勝負。完璧に作れたのでは面白くない。

お店ではありえないくらいたくさんクリームを入れて。ひとり2つづつ。

帰る頃にはちょうど日が落ちていた。

楽しかったよ。ありがとう。吉田さんの家をほのかと二人であとにした。

帰り道。夕陽に向かって歩く私たち
「会社ではみたことないくらいの笑顔だったね」
『パキオ(吉田さんの家のパキラ)に今度栄養剤を買っていこうと思う』などと
今日の思い出を語り合った。

久しぶりのシュークリームが、
「自信のないこともとりあえずやってみることの大切さ」を

教えてくれた気がする。

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