見出し画像

第22回「夫婦」5分

人物
山下トキヨシ(30)会社員、はなみの夫
山下はなみ(34)会社員、トキヨシの妻
松下(30)トキヨシの同僚。
店員 居酒屋店員
運転手 タクシー運転手
警察官

〇結婚式場・外観
桜が咲いている。
花弁が舞っている。
鐘が鳴り響いている。

〇同・内
タキシード姿の山下トキヨシ(30)。
ウェディングドレス姿の山下はなみ(34)。
参列者がトキヨシとはなみにフラワーシャワーをかけている。
笑顔のトキヨシ、はなみ。

〇山下夫婦・マンション・外観
ヒマワリの花がしなだれている。

〇同・内(夕)
殺風景なリビング。
サイドボードには結婚式の写真が入ったうっすらと埃が被った写真立て。
部屋干しの洋服。
床に海外旅行パンフレットが散らばっている。
ドアの開く音。
オフィスカジュアルで買い物袋を下げたはなみが部屋に入る。
薄暗い部屋にカーテンの隙間から夕日が差し込んでいる。
部屋の中を見るはなみ。
買い物袋を椅子に置いて冷蔵庫からビールを取り出しカーテンを開ける。

〇同・ベランダ(夕)
ベランダに出るはなみ。
はなみは缶ビールを開けて飲む。
階下の庭を手をつないで歩く老夫婦を見るはなみ。
ため息をつくはなみ。

〇居酒屋・外観(夜)

〇同・内(夜)
トキヨシ、松下、同僚の四人が酔っぱらっている。
トキヨシ、ジョッキビールを勢いよく飲み干す。
松下「あ、いいねぇいいねぇ、おい次、お願いしまーす」
店員「あい、生追加!」
トキヨシは首を垂れている。
松下「すげぇ飲むじゃん今日、どうしたよ新婚よ」
トキヨシ「新婚?……新婚っていつまでだぁ?」
松下、同僚が目を合わせて首をかしげる。
松下「一年くらい?」
トキヨシ「一年……じゃうちはもう熟年っすわ」
松下「おい、大丈夫か?」
店員がビールをトキヨシの前に置く。
トキヨシはビールを勢いよく飲む。

〇山下夫婦・マンション・内(夜)
ソファで寝ているはなみ。
テーブルには空き缶が三本。
開けっ放しの窓から風が入ってきている。
寒さで起きるはなみ。
はなみ「さむ……」
と、スマホで時間を確認する。
スマホには22:50の表示。
はなみ「はぁ、まだかよ」
と、トキヨシにメッセージを送ろうとしてやめるはなみ。
はなみ、ソファに起き上がって、
はなみ「あー、もうめんどくさ、あほらし」
と、寝室へ向かう。

〇同・寝室(夜)
クローゼットを開けてワンピースを取り出すはなみ。
着替えるはなみ。

〇同・キッチン(夜)
買い物袋から飛び出た牛乳パックが汗をかいている。

〇キャバクラ前(夜)
トキヨシ、松下、同僚がキャバ嬢に見送られている。
松下「じゃーねー」
手を振るキャバ嬢。
同僚二人は駅へ向かう。
トキヨシ「さ、次いこ、ね」
松下「お前さ、もうやめといたら?ね」
トキヨシ「なんで」
松下「なんでって、さ」
トキヨシ、ふらついて縁石に座り込む。
松下「おいおい、どうした」
トキヨシ「なんかさ、わかんねーんだよ」
松下「え?」
トキヨシ「アイツが考えてることとか、イライラしていることとか」
松下「はぁ……」
トキヨシ「最近ずっとむすっとしてて、よくわかんね」
トキヨシはネクタイを緩める。
ボーイが酔っ払いを引きずってトキヨシの横のゴミ捨て場に捨てる。

〇タクシー(夜)
後部座席に座るワンピース姿のはなみ。
タクシーの運転手がミラーでチラチラはなみを見る。
はなみ「なんですか」
運転手「ああすみません」
おどおどと運転する運転手。
運転手「あのー、どちらまで行けば……」
はなみ「適当に飲み屋がある……駅の方で」
運転手「あ、はい……」
運転手はミラーではなみを見る。
はなみ「あの、前ちゃんと見てください」
運転手「あ、すみません、あの……」
はなみ「はい?」
運転手「お仕事、ですか?」
はなみ「え?」
運転手「指輪……」
はなみは左手薬指の指輪を見る。
はなみ「あ、」
運転手「あ、結構ね、お仕事行くときそのまま行っちゃう人いるんですよ、はは」
はなみはむすっとしている。
指輪を外そうとするはなみ。
外れない指輪。
はなみ「あの、次の駅前でいいんで降ろしてください」
運転手「あ、はい」
ネオンの灯りが反射するタクシー。

〇早坂駅前公園(夜)
松下がトキヨシの肩を持って歩いている。
トキヨシ「なんだよー、もう、俺は……さぁ」
松下「はいはい」
トキヨシ「結婚ってさなんだよー」
松下「はいはい」
通行人がトキヨシと松下を怪訝な顔で見る。
駅の灯りを見つける松下。

〇早坂駅・改札(夜)
松下がトキヨシをベンチに座らせる。
松下、トキヨシの頬を叩いて、
松下「おい、もう駅だから、な」
トキヨシ「ああありがとう、大丈夫、大丈夫」
松下「本当かよー」
トキヨシ「大丈夫、ほら、」
と、定期券を取り出す。
松下「じゃちゃんと乗ってよ」
と、去る松下。

〇タクシー(夜)
小銭入れから支払いをするはなみ。
運転手「はい、ありがとうございます」
はなみ、駅の方角を見る。
ベンチに座って寝ているトキヨシ。
警官がトキヨシに声をかけている。
はなみ「あ、あの、運転手さんここで待ってて」
はなみが勢いよく駅へ走り出す。

〇早坂駅・改札前(夜)
警察官「あのー、大丈夫ですか?」
トキヨシ「へ?へい……」
と、寝続けるトキヨシ。
警察官「免許証お持ちですか?」
はなみが駆けつけて、
はなみ「この人、あの」
警察官「お知合いですか?」
はなみ「家族です」
警察官「何か身分証明書、免許証お持ちですか?」
はなみ、鞄を探すが小銭入れしかもっていない。
はなみ「あ、えっと」
と、左手の薬指を見せて
はなみ「夫婦です、夫婦」
警察官「え……それはちょっと」
はなみは指輪をぐいぐいと引っ張って、指輪の内側を警察官に見せる。
警察官は指輪の刻印を見る。
はなみはトキヨシの左手から指輪を取って刻印を警察官に見せる。
指輪にはどちらも「T&H 2020.4.15」と刻印されている。
警察官「あ、これは失礼しました」
ほっとするはなみ。
警察官「新婚さんですね」
と、はなみに笑いかける。
苦笑いするはなみ。
大いびきをかくトキヨシ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?