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千野栄一「外国語上達法」を読む①:外国語マスターに必要なもの

『外国語上達法』という本を知っていますか?86年に岩波新書から出ている本です。

かなり古い本ですが、すごい本です。おすすめです。Amazonで中古本で10円で投げ売りされていますが、担当学生にも勧めている本です。

まず千野先生はスラブ語の達人で、東京外語大で教鞭をとり、辞書の編纂に携わるような語学の天才です。岩波新書で語学テーマの本を出しているのですから、語学業界の重鎮と見て間違いありません。前書き冒頭で「私は語学が苦手である」と宣言され、文中では、他の研究者の素晴らしさに比べると自分は凡人だと書かれていますが、昭和の大学者にとって謙遜は美学なので真に受けないでください(笑)。

この本の全体的なレビューはAmazonやその他のブログにもあるので、そちらを参考にしてください。ここでは私に刺さった内容を中心にお話します。この著作は外国語習得のコツを教えてくれます。ノウハウとともに、不都合な真実も伝えています。こういう本質的な部分が、この本を皆さんに勧める所以です。

不都合な真実その1
語学は「才能」である。(前書き)

不都合な真実その2
語学は「時間とお金」である。(p38)

千野先生は語学業界がひた隠しにしてきた、今もひた隠しにし続けている企業秘密を、冒頭数ページで「しれっ」と言いのけます。「うすうす気付いてはいたけど露骨だな」と思った人もいるかもしれません。

私も大学の教養外国語で躓き、大学院で英語に悩まされた学習者として、20年近く現場で韓国語を教えている端くれとして、大いに頷ける「真実」です。天才の言うことは残酷です。残酷ですが、事実です。

語学学習は、暇つぶし程度にyoutubeを見るとか、学習書を買ってパラパラめくってみるとかということで、何とかなる世界ではないのです。週に1〜2時間、カルチャーセンターで習っても満足いくだけの習得に至らないのは、「英語」学習で身にしみているはずです。

『これが正しい!英語学習法』(ちくま書房)を書いた東大の斎藤兆史先生は、中高の6年間程度の授業で英語ができるようになるなど、大間違いだと書いています。「韓国語は日本語に似ているから簡単」というのはビジネストークです。断言しておきます。新しい言語を習得するのに簡単な訳がないのです。

この辺はまた詳述しますが、大学で週に2回、2年間第二外国語を学んだとしても、喋れますというレベルにはなる人はまずいないでしょう。だから、第二外国語の学習など無意味だと思われているのかもしれません。いま、大学の第二外国語の授業は大きく縮小されつつあります。

Twitterで韓国語ができるとか、TOPIK〇級だとか書いている人は、大きくは2タイプです。

1つめは「才能を生まれもった人」。語学という厳しい山に登るのが好きで、かつよく出来て褒められるタイプの人です。決して多くはないけど。外語大の学生や、エリート大学に入れる人は、語学の好き嫌いは別にして、そつなくこなせてしまう人が多いです。この手の人達は、息をするように単語を覚え、文法を理解してしまいますので、全く参考になりません。残念ですが、何か新しいことを習得するのにおいて、若さも才能です。暗記力、瞬発力、聞き取る力などは、年齢とともに劣るものです。もちろん学びたい!という思いに年齢は関係なく、新しいことに挑戦するのは素晴らしいことだと思います。しかし、若い人のほうがアドバンテージがあるのもまた事実です。動画を見続けたり音楽を聞き続けただけで、韓国語が何となく分かるようになったといえるのは、圧倒的に若い人です。

2つめは「留学してできるようになった人」。留学したり、外国語を使う人に囲まれるなどの環境に置かれると、外国語を話さなければならないという必然性が発生します。語学習得にはこの必然性が大事です。今ここでその言語ができないと困るという状況にあれば、特に言語センスのない人でもできるようになっていきます。伸び率は人それぞれでしょうが、一定の力は身につくでしょう。動画を見すぎているケースも、準留学体験者と含められるのかもしれません。

これらの人は、「才能」か「時間とお金」のいずれか、あるいは両方を持っている人です。ちなみに「時間とお金」はセットです。単にお金があって参考書を山のように買っても、時間を投資して勉強しなければ、ものになりませんよね。留学や大学で韓国語を専攻すると、つまり「時間とお金」を掛ければ、そこそこものになります。「時間とお金」をかけても挫折者はいますが。

不都合な真実を知ってもなお、「推しも日本語を頑張っているから、上達するしないは別として、苦行に挑みたい!」という人もいるかもしれません。それは結構だと思います。

冒頭から、人のやる気をそぐ、萎える話をしたいのではありません。ええ、これは完全に前フリです。ご安心を。

もう若くないので「推し」には近づけない、と絶望に浸る必要はありません。どんなに時間がなくても、お金を掛けなくても、いわゆる忙しいフツーの大人が「登れる・登りたくなる山」、それが韓活韓国語です。語学の高い山を前に、「韓国語はカンタンだよ」「この教科書はわかりやすいよ」とささやいて、無限地獄に引きずり込むビジネストークとは異なります。これから、昭和から続く語学学習のアプローチとは違う、ノウハウやスキルを提供していきたいと思っています。


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