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「終戦の日」に見た映画

関川秀雄監督の『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』(1950年)をみた。
本作は、1944年3月に開始され6月末まで続いた、イギリス領インド帝国北東部のインパール攻略を目指した「インパール作戦」の現実が、それに従事する学徒兵の回想とともに描かれた作品である。「インパール作戦」からわずか六年しか経ていない段階で、それを題材にした映画が制作されている事実には、素直に驚かされた。

作戦に従事した学徒兵たちは、東京帝国大学や東京美術学校での学びを中断させられた者たちである。なかには、信欣三が演じた大木二等兵のように、大学で教鞭をとっていた人間も含まれていた。
映画内では、上記の学徒兵たちに対する上司の不合理な態度が描かれている。特に印象的なのは、岸野中尉の大木二等兵に対する非人道的な扱い。岸野中尉は狩った獣を、大木二等兵にワンワンと吠えさせながら口に咥え歩くことを命じている。
なぜ岸野中尉は大木二等兵に辛くあたるのか。一学徒兵の言葉を借りれば「岸野中尉はわれわれ学徒兵が、つまり教育のある人間が憎いんですよ」ということになる。上司が私情を振り回す現場で、自分の生死が決定してしまう現実には、陰惨な気持ちにならざるをえない。

現代社会においても、「教育のある人間」(とくに大学教員・専門家)に対する偏見や非難を目にする機会は多い。ことに現在は、感染症が蔓延する状況があるだけに、私情をもって彼らの声を無視することは許されない。『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』を見て、そんなことを考えた。

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