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子供心の鈍感さと繊細さ

子どもにとって「親」というものは、「典型的な人間像」として刻み込まれる存在である。親がどのような仕事をしているのか、どんな関係性にあるのか、といった様々な姿が、子どもに「他の家族においても同じくそうである」という認識を生じさせる。
例えば、両親が常に仲良く、関係性が良好である子どもの場合、そうではない親(一人親など)をもつ子どもに冷淡になる場合がある。このことがきっかけとなり、学校現場でいじめが発生する危険性もある。表面的には、子どもが他の子どもの親事情に鈍感なあまり、相手を傷つけてしまうという事象に見えるが、実際は親の強い影響下にある子どもの繊細な心のあらわれだと言える。

子供心の鈍感さと繊細さを描いた作品に、相米慎二監督の『お引越し』がある。
舞台は京都。小学六年生の漆場レンコは、両親が離婚を想定した別居生活を始めたことで、父・ケンイチが引っ越していなくなった家で母親・ナズナと二人暮らしを始めることになる。京都の街を駆け抜けるほどの活発さがあり、どんな人の前でも明るい表情を見せるレンコであったが、実際は父と母の板挟み状態で心は傷ついていた。

ある日、レンコは両親の寄りを戻すために、一つの計画をたてる。それは、自分の部屋に立て籠もり、望みが叶うまで出てこないというものだ。この計画は、実行前に頓挫してしまい、かわりに急遽浴室に立て籠もることになった。
母が何度呼びかけても、レンコの返事はない。そこに、父・ケンイチもやってきてレンコに呼びかけるが、無反応である。そんな中、レンコの母と父の言い争いが始まってしまう。
レンコの母・ナズナが、夫を嫌っている理由は、彼女が妊娠中のとき、悪阻で苦しんでいた自分を一度も支えてくれなかったから。一度「手伝うて」と声をかけた際には、「お前は経済的協力をしてへんくせに、うるさいことをいうな」と言われたという。この言葉を耳にした夫は、「なんてひどい女や。昔のことを」と応酬する。そのやりとりを聞いていたレンコは「なんで産んだん!」と、立て籠もった浴室から叫んだ。心に閉じ込めていた悲痛の思いが、外に溢れ出した瞬間だった。

子どもは親を選べないという現実と、親も一人の人間であるという現実。この二つの現実に折り合いをつけて、家族というものは成り立っている。

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