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【コラム】スペインによる新大陸の征服と植民地化
調べ始めると知らないことが増えていく。
ルネサンスの3大発明として「火薬」「活版印刷」と並び「羅針盤」が取り上げられている。
「火薬」が当時のヨーロッパの軍事面に与えた影響や、「活版印刷」が当時の情報面に与えた影響はなんとなく想像できると思う。
実際に、『世界を変えた火薬の歴史』によると、「火薬」はヨーロッパに大きな軍事力をもたらし、社会構造に重大な変化を引き起こしたことが述べられている。
具体的な影響としては騎士の没落と軍事バランスの変化が挙げられる。火薬を用いた鉄砲の登場により、従来の騎士中心の戦闘スタイルが時代遅れとなる。そして、軍事力のバランスが大きく変化し、火薬兵器の導入が可能であった国家が力を持つようになり、ヨーロッパ諸国の世界進出を後押ししたとされる。
また活版印刷は、知識の普及、科学・思想の発展、宗教改革の促進に影響を与えた。これらの情報革命を通じて、ルネサンス期のヨーロッパに革命的な変化をもたらしたとされている。
それでは、「羅針盤」は世界にどのような影響を与えたのだろうか。この小さな道具が世界に与えた影響が知りたくなり、先日「羅針盤」について調べてみた。
この時、スペインによる新大陸の征服という歴史について何もしらかったので調べてみたのが今回の経緯である。
1. はじめに
スペインによる新大陸の征服と植民地化は、世界史上最も重要な出来事の一つである。1492年の探検家・コロンブスによるアメリカ大陸到達を皮切りに、スペインが急速に中南米の広大な地域を支配下に置いた。
下記の図は現在のスペイン語圏を表している。この図からもスペインが世界に与えた影響は計り知れないと考えられる。
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(大阪大学 スペイン語独習コンテンツより)
これより、スペインによる新大陸の征服と植民地化について調べたことをまとめていく。
2. 征服の過程
まず、新大陸征服までの大まかな流れを説明する。
1. カリブ海諸島(1492年〜)
コロンブスが最初に到達したのはバハマ諸島であった。その後キューバ、ハイチ、ドミニカ共和国などのカリブ海の島々が征服されていく。
2. メキシコ(1519-1521年)
エルナン・コルテスがアステカ帝国を征服。首都テノチティトランの陥落により、メキシコ全土がスペインの支配下に入る。
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ジェイ・I・キスラック・コレクション、米国議会図書館、ワシントンDC。
3. 中央アメリカ(1520年代〜)
グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなどの地域が征服される。
4. 南アメリカ(1532年〜)
フランシスコ・ピサロがインカ帝国を征服し、ペルー、ボリビア、エクアドルを含むアンデス地方を支配下に置く。その後コロンビア、ベネズエラ、アルゼンチン、チリなども征服される。
5. 北アメリカの一部(16世紀後半〜)
現在のアメリカ合衆国南西部(カリフォルニア、テキサス、フロリダなど)もスペインの植民地となった。
16世紀初頭から始まったスペインの新大陸の征服は、およそ100年間で主要な国を支配下に置いたことがわかる。
3.征服成功の要因
スペインによる新大陸の征服はなぜ短期間で成功したのだろうか。
要因は、複合的かつ多岐にわたる。
まず、スペイン人が持つ技術的優位性が挙げられる。鉄製の武器や鎧、火器、そして先住民にとって未知の存在だった馬を用いた騎兵隊など、軍事面での圧倒的な優位性により、スペイン人は数的不利を覆して勝利を収めた。
次に、疫病の蔓延が大きな影響を与えた。スペイン人が持ち込んだ天然痘やインフルエンザなどの疫病に対して、先住民は免疫を持っていなかった。その結果、疫病の大流行により先住民の人口が激減し、戦いにおける抵抗力が著しく低下してしまった。
さらに、スペイン人は先住民族間の対立を巧みに利用していった。例えば、アステカ帝国征服の際には、アステカに敵対していた他の先住民族と同盟を結び、征服を進めた。
宗教的動機も重要な要因であった。キリスト教の布教という大義名分が、征服者たちの行動を正当化し、彼らに使命感を与えていた。
最後に、経済的動機も見逃せない。金銀などの天然資源への強い欲望が、征服者たちを駆り立てた。エル・ドラド(黄金郷)の伝説に引き寄せられ、多くの征服者が南米大陸の奥地まで探索を行った。
これらの要因が複雑に絡み合い、スペインによる新大陸の征服を短期間で可能にしたのである。
4. 植民地統制体
スペインの植民地体制は、エンコミエンダ制やカトリック教会の布教、大規模農園、カスタ制など、多岐にわたる制度や政策によって支えられていた。
エンコミエンダ制は、スペインがアメリカ大陸で採用した先住民統治制度で、征服者や入植者に先住民の労働力を分配するものであった。この制度は、先住民をキリスト教に改宗させることを条件に、彼らを労働力として利用する権利を与えるものであったが、実質的には奴隷制と変わらないものであった。エンコミエンダ制の下で、先住民は鉱山や農園で過酷な労働を強いられ、多くが命を落とすこととなった。この制度は、先住民の人口減少とともに次第に廃止された。
カトリック教会は、スペインの植民地統治において重要な役割を果たす。先住民のキリスト教化が積極的に進められ、宣教師たちは教育や医療などの社会活動を通じて布教を行った。特にイエズス会は、対抗宗教改革の一環として新大陸での布教活動に力を入れ、多くの先住民を改宗させた。
スペインの植民地でサトウキビやタバコなどのプランテーション農業が発展。これらの農園では、先住民やアフリカから連れてこられた黒人奴隷が労働力として使われた。特に西インド諸島では、砂糖の生産が重要な産業となり、プランテーション経営が広がった。
カスタ制は、スペインの植民地社会で確立された人種による身分制度である。この制度では、スペイン生まれの白人(ペニンスラール)が社会の頂点に立ち、現地生まれの白人(クリオーリョ)、混血のメスティーソ、先住民、黒人奴隷の順に身分が分けられた。この身分制度は、社会の階層構造を固定化し、植民地支配を維持するための重要な手段となった。
このように、スペインの植民地体制は、経済的利益を追求する一方で、多くの人々に苦しみをもたらした複雑な歴史を持っている。
5.植民地支配の影響
5.1. 先住民社会への影響
ここでは、植民地支配が先住民社会に甚大な影響を与えたことについて整理する。まず、戦争や疫病、過酷な労働により、先住民人口の激減が挙げられる。下記の記事によると、1492年から1600年の間に先住民人口の90%が死亡し、約5500万人が亡くなったとされている。このことからもがもたらした影響が甚大であったことが窺える。また、多くの先住民文化が失われ、言語や宗教が強制的に変えられた。
さらに、伝統的な社会構造が崩壊し、新たな階層社会が形成された。経済構造も自給自足経済から輸出向け一次産品生産へと転換した。最後に、スペイン人と先住民の混血が進み、メスティーソと呼ばれる新たな人種が誕生した。
5.2. スペインへの影響
一方で、スペインにとってこの征服と植民地化は莫大な富をもたらす。
スペインは新大陸での鉱山開発に大きな力を注いだ。特に金銀の採掘が盛んに行われ、1545年に発見されたポトシ銀山はその象徴とされている。この銀山では、先住民が過酷な労働を強いられ、大量の銀がスペイン本国に送られた。
鉱山開発によって得られた、金や銀はヨーロッパの経済にも大きな影響を与え、価格革命を引き起こす。
また、ジャガイモやトウモロコシなどの新大陸原産の作物がヨーロッパに伝わり、農業革命をもたらした。
しかし、長期的に見ると、この植民地支配はスペイン自身にも負の影響を与えた。莫大な富の流入は国内産業の発展を阻害し、他のヨーロッパ諸国に比べて産業革命への対応が遅れる一因となった。また、広大な植民地の維持に多大なコストがかかり、国力を消耗させることにもなった。
6. 植民地帝国の崩壊
19世紀に入ると、ナポレオン戦争の混乱もあり、中南米の植民地は次々と独立していく。1898年の米西戦争でキューバとフィリピンを失い、スペインの植民地帝国は事実上崩壊した。
7. 植民地化の長期的影響
スペインによる征服と植民地化の影響は、独立後も中南米諸国に深く残っている。
7.1. 言語と文化
スペイン語は、ブラジルを除く中南米諸国の公用語となり、共通のコミュニケーション手段として定着した。これにより、中南米諸国間の文化的つながりが強化される一方で、先住民言語の多くが衰退。また、カトリック教会の影響力も強く残り、宗教行事や価値観に大きな影響を与えている。
7.2. 経済構造
植民地時代に確立された一次産品輸出に依存する経済構造は、多くの国で独立後も継続している。鉱物資源や農産物の輸出に頼る経済は、国際市場の変動に脆弱で、経済の多角化や工業化の遅れにつながった。また、大土地所有制(ラティフンディオ)のような植民地時代の土地所有形態が、農業改革の障害となる例も見られる。
7.3. 社会階層と不平等
植民地時代に形成された人種・民族に基づく社会階層は、独立後も根強く残った。
先住民やアフリカ系住民に対する差別や、エリート層による政治経済の支配など、植民地時代に起源を持つ社会問題が継続している。これは教育や雇用の機会の不平等にもつながり、貧困の連鎖を生み出す要因となっている。
このように、スペインによる新大陸の征服と植民地化は、500年以上経った今日でも、中南米諸国の社会、文化、経済に大きな影響を与え続けている。また、この歴史的経験は、植民地主義や帝国主義の功罪を考える上で重要な事例となっている。
8. 現代の視点
近年では、この歴史の再評価も進んでいる。かつては「文明をもたらした偉業」として美化されがちだったスペインの征服だが、現在では先住民の視点からの歴史解釈も重視されるようになっている。多くの国で、10月12日のコロンブス・デーを「先住民の日」に変更するなど、歴史認識の変化も見られる。
また、征服と植民地化がもたらした長期的な影響についての研究も進んでいる。例えば、植民地時代の制度が現在の経済発展にどのような影響を与えているかなど、経済学や政治学の分野でも注目されている。
9. まとめ
このように、スペインによる新大陸の征服と植民地化は、500年以上経った今日でも、中南米諸国の社会、文化、経済に大きな影響を与え続けている。また、この歴史的経験は、植民地主義や帝国主義の功罪を考える上で重要な事例といえる。
スペインによる新大陸の征服と植民地化は、単なる過去の出来事ではなく、現代の中南米諸国、そして世界全体の姿を理解する上で欠かせない歴史的プロセスである。その影響は複雑で多面的であり、現代社会の様々な側面に深く根付いている。この歴史を理解することは、現代世界の諸問題の起源を探り、より良い未来を構築するための重要な手がかりとなるだろう。
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