死体を捨てたときに開けたのか 『ポニイテイル』★15★
1歩、2歩、3歩――2人はゆっくり歩みを進めた。
10歩、20歩。部屋のあかりが近づく。
「まぶしっ!」
「あれって管理人室じゃね?」
「ヤダ。ねぇ、こわいおじさんがいるよ、ゼッタイ」
「いや、管理人の定番ならやさしいおじいちゃんだろ。確率は50パーセント。おっさんかじーさんか。ん? あそこのドアも開いてる。まったく無防備なビルだな。じーさんか」
開けっ放しのドアから2人はそっと顔を突き出して部屋の中をうかがった。スチールの大きな長テーブルとイスがあり、その上にパソコンのモニタが6台並んでいる他は、これといった特徴のないがらんとした小さな部屋。やっぱり、管理人室っぽい。
ただ予想外だったのは……管理人はおじさんでもおじいさんでもなく――女性だった。背中まで届くロングヘア。黒いタイトなドレスに包まれたその後姿はすらりと細く、背はそこまで高くない。たった一人で向こうを見て、部屋の中央にまっすぐマネキンのように静止している。
あどと真神村はいったん顔をひっこめる。
(どうしよう、マカムラッチ)
(どうするって?)
(すみません、って声をかける?)
(何か、妖怪っぽくねーか? ドラキュラ? 人間っぽくねーぞ。ていうかアレ、管理人か? ちがくね?)
(でも管理人室にいる大人が管理人だよね)
(髪長すぎだろ。黒いドレスだぜ)
(ウチ、もう一度見てみる――)
あどが顔を出すと、今度はすぐそこに、顔があった。
「ひぇえええ!」
100パーセント魔女――猫のような瞳と鋭くつり上がった目尻。細い眉と長いまつげ。黒く塗られた口紅。きれいで直線的な鼻。風に負けないくらい白くて冷たそうな肌。黒く流れる髪と、同じく黒く流れるドレス。そしてなにより、映画の中でしか見ないような美人。
「ひ、ひい」
「何処から――」
黒塗りの唇がゆっくり動く。
「何処からここへ入ってきたの?」
あどのカドのないあごを、魔女が軽くなでる。
「あ、あっちの……」
「非常口です」
「あの非常口が、開いてたの? ホントに?」
「あ、はい」
爪が動物的に長い。そして真紅のマニキュア。左手には何か、ひものようなものを持っている。
「ううん、なんでアソコ、開いてたんだろう」
声は花のように甘く若い。もしかして高校生? いや、たぶん大人だ。10代なのか20代なのか見分けがつかない。
「あ、そっかそっか。さっきあたしが――」
魔女は初めてほほ笑んだ。
「死体を捨てたときに開けたのか」
「シタイ!」
「ひぃ!」
「二度と開かないようにしてくるから、ここで待っていてね」
「し、死体!」
「ひぃ!」
「あら? あなたたち、何を怯えているの?」
「し、今、死体って……」
「ふふ。死体って、ネズミの死体。ほら、しっぽ。お腹すいてる?」
魔女はつまんでいたひも状の物体を助手の眼前に突き出す。
「あ、オレ、帰ります!」
「ウチも」
「おう、行こう。さようなら」
マカムラは再びあどの手をとると、非常口に向かって足早に歩き始め、それは途中から駆け足に変わった。
「ねぇ、待って!」
「ダメだぞ、足を止めるな! 止まったらヤられる」
「う、うん!」
「ねぇ、ちょっと」
暗い廊下に、いきなり照明がつく。
「まぶしい!」
「逃げろ!」
「待ってよあどちゃん、マカムラくん!」
「――!」
「ちょっと! 冗談。これはただのヒモ! 戻ってきてよ」
ポニイのテイル★15★ 船の科学館
★20歳過ぎのころ、ビルの清掃のアルバイトをしていたので、地下や1階の管理人室にはよく足を踏み入れていました。画像の悪いモニターがあったり機械が並んでいたり、狭い中を効率よく使おうとしている工夫が見られたり、生活のかけらみたいなものがあったりして、のぞき見るのが楽しかった。
★写真はその昔、『船の科学館』に遊びに行ったときのものです。みんながつまみを回して、はげちゃっているあたりがなんともいい感じです。。書いていたら科学館へ行きたくなってきた。
★今日、塾に通っていたマグマちゃんから『バイトの採用が決まりました!』というLINEをもらった。私もたまにいくカフェですが大丈夫かな?
★noteをあちこち見ていたら、連載小説を続けている人が想像していたよりも多くてびっくり。そしてnoteのタイムラインの仕様が変わっていたので、『ポニイテイル』のタイトルの表示の仕方を変えることにしました。題名を本文の方ではなく、大きな文字の方へ移動。揃いが悪いのでこれまでのをぜんぶ直さなくちゃ。開発チームが工夫を重ねているのがうれしいです。
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