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高原通信【修行編】4月

農家見習い始めました

4月1日から大都市近郊のサクランボ農家へと修行に入った。30年以上も都会のサラリーマン生活をしてきたモヤシおやじが、どこまで本物の農家の仕事に耐えられるか、不安でいっぱいいっぱいだった。

農家に修行に入り、こき使われながら仕事を覚えるというやり方は、あまり今風ではない。農業の仕事を覚えるのには、もっと楽でよい方法はいくらでもある。(農業学校に行ったり、週末だけボランティアで働く等)では、なぜこんな古臭いやり方を選んだのか。それは、実際の農家の働き方を経験し、今の働き方で何がダメなのか、どう変えていくべきなのかを体験を通して理解したかったからだ。

では、実際に農家の若者従業員とモヤシおやじが、手加減なしで一緒に働くとどうなるか?

農家の仕事

ー朝8:00ー
農園の従業員A:「アイザワさん、俺のタイムカード間違って押してますよ。」
私      :「えっ?そう?ごめん。間違ったわ。今後気を付けるね」
ー昼12:00ー
農園の従業員A:「アイザワさん、かんべんしてよ。また俺のタイムカード押してますよ。どうしたの?」
私    :「げっ!またやっちゃった?間違えないようによく確認して押したんだけどね。ごめんなさい」

と、4月1日から休みなく働き始めてちょうど8日目。体力的に疲れがピークに達し、集中力も枯渇し、よく注意していたのにも関わらず他人のタイムカードを打刻していたのだ。私はさすがにもう体力的な限界かな、やばいなと思っていると、

農園主:「アイザワさん、ツラそうに見えるけど大丈夫?事故が起こってからじゃ遅いから、休みもっと取れるように契約見直そうか?」
私  :「いや、大丈夫っす。今が疲れのピークですから、一晩寝れば大丈夫っす」
と答えていたが、雇われ農民見習いというのは給料がものすごく安く、1日休むと金銭的ダメージがデカいため休めないのだ。

私は一般的な農家の仕事を根本的に勘違いしていた。農家って、一日中樹木の面倒を見ているものかと思ったら、仕事内容の70%以上は土方作業や力仕事なのだ。1本10―20Kgぐらいある鋼鉄のパイプを何十本も手で運んだり、力任せにかしめたり、ビニールハウスを修繕したり、新しい農場を開墾したり、切り倒して農園の崖の下に落ちた棘だらけの大木を、崖上に運んだりといった力仕事が結構多い。

農園主だったら絶対自分でやらない仕事を、従業員や見習いの俺にやらせているわけだ。せっかくお金を払って雇っているのだから、休みなく徹底的にこき使うのが農家の流儀。こんなやり方じゃあ最近の若者は絶対働かないよなと、ベトナムや中国の研修生も農家から逃げ出す理由がよくわかりました。栽培に関するノウハウより土木工事系のノウハウの方がたまりそうです。

農家の現実

農家の売り上げは、栽培面積で決まる。というか”限定”される。天候次第でさらに限定される。よって利益を残そうと、コストを極限まで下げようという意識が染みついている。人件費(パート)がやはり大きなウエイトを占めるため、労働力をできるだけ安く徹底的に使い切ろうとする姿勢が強くなる。よって従業員の定着率を良くしよう、一人ひとりにケアしようという姿勢は皆無。(いわゆる都会のブラック企業に近い)

固定費の機械もなるべく長く使うので泥だらけで古ぼけている。擦り切れてシミだらけの野良作業だって着れれば外見はどうでもよい。倉庫は埃だらけの、ところどころ破けている古いビニールハウスを改造して利用している。農場には休憩所はおろか、トイレすらない。一言で言うと、”貧乏くさい”。そして、こういう農家の”売上に関係しないことには全く金をかけない・かけたくない”姿勢は昔から続いていて変わっていない。変える必要も理解できないからだ。

だが、一般的な若者がこういう環境を見て経験して、農業をしたいと思うだろうか?農業という職業に希望を持てるだろうか?このような環境で働くくらいだったら、オシャレで刺激に満ちた都会のオフィスで働く方がいいと思うのは仕方ない。農業の本質(収穫の量と質を維持し利益を出す)とはまったくかけ離れた事だが、若者に農業に興味を持ってもらうには、こういう身近なところからイメージを良くしていく必要があると思う。本質からかけ離れている故、働く環境が無視され続けて若者が離れていく悪循環があると思う。

田舎は甘くない

農園主:「アイザワさん、君、本当に腹くくって不退転で農業やる気あるのか?」私が働き始めて3週間経った頃、こう農園主は私に問いかけてきた。私  :「この農家での経験を通して、実際自分でやり切れるかどうかを決める予定ですので、今は何とも言えません」と答えると、
農園主:「そんな気持ちではダメだ。そんなんでは、この辺で土地を買ったり借りたりできないよ。農業は土地がないと何も始まらない。土地を借りるにせよ、買うにせよ、よっぽどの信用と実績がないと話が進まないからね。信用も実績もない”よそ者”なら、農業経営計画を立てて、アイザワさんの農業に対する熱意をもって何度も何度も関係者全員に話をしても、どうなるかわからないぐらいなんだよ。」

土方作業で疲れてボーっとしている最中に、辛辣な言葉で私を追い込んでくる。まだ現状では、ただの個人に農園を貸したり、売ったりすることは非常に難しい。先祖代々の土地だから、親族の反対があるから、土地の手入れがちゃんとできるか信用できない、等いろいろと農家側にも都合があるのだ。農家側が後継者不足により、本当に困るまでこのまま待っててもいいのだが、私の年齢だととにかく早く初めて、土地を手放さざるを得なくなったときに直ぐに拡大路線に乗れるように準備(農業の信用と実績)しておく必要があるのだ。

まず現状の第一歩は、とにかく正攻法(熱意と計画)で攻めるしかないようだ。

4月のサクランボ

基本的にこちらから農園主に質問しない限り、サクランボ栽培に関する情報は得られない。何事も初めてのことを学ぶときは「何がわからないか、わからない」状態なので、質問自体を考えるのに日々苦労している。が、サクランボはそんなことお構いなしに日々成長していくので、取り急ぎ成長日誌を記載する。

花摘み

サクランボは4月中旬頃から花が咲き始め、月末頃には終わってしまう。桜の花の命は短い。そこで、最初にやり始める農作業は「花摘み」だ。サクランボは自家受粉をしないので、他品種のサクランボの花を摘み取って花粉を集めて他の品種に受粉をしなくてはいけない。「花摘み」は楽しいと同時にちょっとした罪悪感を感じる。美しく満開に咲いている桜の花を、両手で毟って、毟って毟りまくる。都会では絶対御法度な行為を夢中でおこなっていると、変な高揚感に包まれて不思議な気持ちになる。

受粉

花摘みを行ったら、次は「受粉」だ。バケツに花粉を入れて、ダチョウの羽に花粉を付けて、サクランボの木にそっとタッチする。あまり強くタッチすると雌しべが傷つくので、優しいタッチで素早くすべての桜の花に受粉していく。これは1日10人体制ぐらいで、1本あたり3回の受粉をおこない。10日ぐらい午前中のみ連続して行う。午後は雌しべが乾燥するため、受粉しにくいからだ。

サクランボの花が満開

実際にサクランボの木の面倒をみるのは楽しい。早く赤く大きなサクランボになってくれないかなーなどと思いながら作業するのは希望がある。しかし、土方作業はツラい。これは私が農園主になったら、他人にやってもらおうと思っている。

5月号に続く。。。。


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