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「この気持ちもいつか忘れる」(住野よる/著)を読みました

住野よるの作品には外れがない。私は高校生の時、住野作品に何作か触れて、そう思った。本があまり読めなくなるまでは、新作が出ると必ず読んでいたくらい、私は住野よるの小説が好きだ。
そんな私だから、この作品を読んでみようと思ったのも自然な流れだった。だが、読み始めて私は、困惑してしまった。

この作品は、退屈な日々を過ごす男子高校生である香弥が、爪と目だけが見える異世界の少女チカに出会うというラブストーリーだ。チカの世界と香耶の世界は相互に影響し合っており、彼らはその影響を確かめる実験を繰り返しながら、交流を深めていく。
異世界人であるチカは、理知的で自分の考えを明確に持った芯のある人物で、彼女の独特な考え方、異世界の文化などはとても魅力的で、心を惹かれた。

だが一方、私は、主人公である香弥をどうしても好きになれなかった。
彼はとても身勝手で、自己中心的な人物に思えた。クラスメイトを軽蔑し、身勝手にその性質を決めつけている。現実に見切りをつけ、何か特別な出来事が起こらないかと夢想している。チカに出会った後は、この出会いに大きな意味があるのだ、これが自分の求めていた特別な出来事なのだと過剰な期待をしている。これらはあくまで全て私の主観に過ぎないが、とにかく彼の考え方や態度は私を苛つかせた。読み進めるのが苦痛に感じるほどに。

それでも読み進めたのは、単純に物語が面白く、続きが気になるからだった。だが、香弥に我慢して読み進め、読み終えた頃には、私はこの作品が好きになっていた。
終盤、大人になった彼は、ある人物と関わるうちに、徐々に考え方を変えるようになる。タイトルである「この気持ちもいつか忘れる」の意味を理解したとき、心がすっと晴れるような心地がした。忘れることは当然で、忘れてしまってもそれがなかったことにはならない。だから今を積み重ねて生きていくしかないのだ。

最初はあんなに嫌いだった香弥だが、最後には彼のこれからの人生を応援したい、と思わせてくれた。なんとも爽快で、穏やかな読後感だった。

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