山口あいか

書くことが好きです

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最近の記事

希望

久しぶりにパソコンの整理をしていたら、書いたことを忘れていた詩が出てきた。新鮮な気持ちで読んだ。 ***** 希望 断崖絶壁が隔てる わたしたちの距離は 希望 といいます たとえば 日曜の朝に あなたは語る オレンジジュースの漲る 磨かれたコップが光り トーストの焼ける匂いが 辺りに満ちている あなたの言葉は あなたの言葉であり わたしの言葉は わたしの言葉でしかありえない この断崖絶壁を 跳んでも 跳んでも 落ちる けれど わたしたちは 言葉を投げかけることを諦め

    • ピンクの指輪

       12月、クリスマスも目前に迫ったころ、指輪を買った。ピンクゴールドの地金に、しずく型のピンクトルマリンがついた、ごく小さな指輪である。  この1年、コロナ禍で、家にいることを余儀なくされた。毎日、家と職場とスーパーの往復。仕事と家事を、ひたすらに繰り返す。当然、例年に比べて、使うお金ははるかに少ない。それを「つまらない一年だった」と言いたくなくて、ひとつ大きな買い物をしようと思い立った。  子供のころ、母のドレッサーを開けて、アクセサリーを覗いてみるのが好きだった。若かりし

      • 桜流し

        携帯の中に、書きさしの詩がある。春先の、世界中が自粛を始めた時期に書いたものだ。結局、続きが浮かばず、携帯の中に残されたままになっている。成仏(?)させるために、ここにupしておこう。 *** 外は 桜流しの雨 世界中が 眠っているかのようにしずかだ 雨だけが降っている 世界の始まりにも 終わる時にも 同じように降っているのではないかと思う ディスプレイのスイッチを入れると パンデミックという言葉が光る 空よりも明るく 発行する液晶 世界はもう この画面の

        • 通り雨

          ※この作品はフィクションです。実際の人物・団体とは関係ありません。 ********************************** ざっ、という音とともに、横殴りの雨が、コンビニの窓を汚した。読みさしの雑誌から、顔をあげる。レジの周辺に目をやると、透明なビニール傘はまだ、売れ残っていた。私は安堵して、バッグから財布を取り出し、レジに向かった。  自動ドアが開くと、アスファルトの足元は豪雨に煙っている。激しいしぶきをあげながら、車が目の前を通り過ぎていく。少し待てば止

          だから今日もメイクする

           “もしかして、わたし、ブスじゃないのかも”  鏡に映る自分を見て、おそるおそるそう思ってみたのは、24歳の春だった。  10代の頃、容姿に自信がなかった。きっかけは、今も覚えている。男子の、女子の容姿に対する、品定めを立ち聞きしたのだ。「あいつはブス」「あいつはスーパースペシャルブス」…耳に飛び込んでくる心無い言葉は、容赦なく胸を刺した。そこで、自分の名前が挙がることはなかった。しかし、「自分たちは、品定めされる側なのだ」という悔しさは、彼らへの憎しみと共に、深く心に刻まれ

          だから今日もメイクする

          「エコール」のイノセンス

           長年見たいと思っていた、「エコール」のDVDをレンタルした。ひどくフェティッシュな作りなのに、全く不快感のない、不思議な映画だった。  少女らの学校は、川の流れる森の奥にある。寮の周囲は高い塀で囲まれ、完全に閉鎖されている。建物と建物の間は、うねった道で繋がれ、辺りを点々と街灯が照らしている。静止した空間が、ポール・デルヴォーの絵を彷彿とさせる。  ある日、学校に木の箱が届く。星型の彫られたそれは、棺を思わせる。中からは、あどけない少女が現れる。細い手足、平らな胸。まだ女と

          「エコール」のイノセンス